第十章 閉ざされた道 (1)
ぼんやりと霞んだ視界の中に、真っ白な光が溢れていた。翳した手の指の隙間から零れる光に不快感はなく、寧ろ抱かれるような温もりが心地よい。
思い出せないが、とても穏やかな夢を見ていた気がする。
再び目を閉じたリキの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「どういうことだ! 騙したのか!」
それは紛れも無くリョショウの声。しかも強い語気は誰かにぶつけられているものだ。
リキは慌てて飛び起き、身支度もそこそこに部屋を出た。想像した通りの光景がそこにある。
「お静まりください、大声を出してはリキ殿がびっくりされます」
「うるさい、どうでもいい! 何故会えない! 話しを付けたのではないのか!」
宥めるモウギに、リョショウが一方的に詰め寄る。怒りに満ちた表情は、昨日リョショウの屋敷の門前で揉み合ったことを思い出させる。
「リョショウ殿!」
リキの声が、今にも掴み掛かろうとするリョショウを引き止めた。振り向いたリョショウは、きっとリキを睨みつける。
「リキ殿、お休みのところを申し訳ない」
モウギは助かったと言いたげな顔をして、リキに軽く頭を下げた。
「いいえ、気にしないでください。何があったのですか?」
「今日は陛下に会えないと言うのだ、目通り出来るよう段取りを付けたと言ったはずだがな」
リョショウは吐き捨てるように言った。モウギはたじろぎ、助けを求めるようにちらりとリキを見る。リョショウにはそれが気に入らない様子で、モウギを睨みつけた。
「陛下にも都合があるのでしょう、どうして会えないのです?」
小さく息を吐き、リキはモウギに尋ねる。
「はい、昨日の宴が予定外に長引いたため疲れが出たそうで……今日の御予定はすべて取消しとのことです」
「いい加減なことを言うな、そんな話を誰が信じるか」
相変わらず不機嫌なリョショウに、今は何を言っても通じないようだ。
「お加減が悪いなら仕方ないわ、明日なら?」
「はい、おそらく大丈夫かと……」
「分かりました。では明日お願いします。ここで待たせていただけますか?」
「もちろんです、恐れ入りますがお願いします」
モウギは恐縮して、何度も頭を下げる。リョショウはそっぽを向いたまま大きく息を吐いた。