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第九章 祭りの影に (13)

 縁側は並んだ部屋に沿って真っ直ぐ延びており、縁側から部屋を行き来出来るようだ。


 リキは縁側に腰掛けて足を伸ばした。髪を優しく揺らす風に誘われるように庭へと目を向ける。そこに廊下で見た緑の苔はなく、開けた土地が広がっている。その先に見える塀の足元を流れる幅の広い小川は、部屋を入る前に廊下で見た小川と繋がっているのだろう。小川は塀に沿って、建物の周りを囲んでいるようだ。


 小川の傍に立つ一本の木に、ふと目が留まる。特に変わった枝振りでもないが、緑茂らせた枝葉のそよぐ姿に胸が揺らいだ。


 どこかで見た景色に似ている。そう感じた途端に、胸の奥深くから懐かしさと悔しさが交錯しながら込み上げる。まるで自分が、ここではない場所に居るかのような錯覚。


 それはソシュクの屋敷の縁側で見た景色に似ていた。ここでは北都のように山を望むことは出来ないが、ソシュクの屋敷の縁側から眺めた木に似ている気がする。


 今頃、北都では何が起こっているのだろう。自分たちを逃がした兄はどうしているのだろう。兄だけでなく父や母やソシュクは無事なのだろうか。自分が逃げたと知ったカンエイは、皆に対して何かしてはいないだろうか。せめてリョショウを匿っていたことが、カンエイの耳に届いてさえいなければいい。


 不安に押し潰されるような胸の苦しさが、リキを襲う。何度も息を吐き、目を閉じては残像を消し去ろうとした。


「ハクラン……」


 目を開けた瞬間、無意識に名前を呼んでいた。


 ハクランは今、どこにいるのだろう。もしかすると、東都のどこかにいるのかもしれない。それとも姉の居る西都へ逃れたのだろうか。どこであってもいいから、せめて無事でいてほしい。

 願いと様々な思いが、涙と共に一気に込み上げてくる。リキは膝を抱えて顔を伏せた。


 嗚咽を堪えるリキの姿を、リョショウが隣の部屋から見ていた。リキの思いを知りながら、言葉を掛けることが出来ないもどかしさにリョショウは唇を噛んだ。






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