第九章 祭りの影に (12)
玄関から回廊が左右に延び、正方形の中庭に沿ってぐるりと囲んでいる。
違った角度からの中庭を眺めながら回廊を進むと、突き当たりに煌びやかな装飾が施された扉が現れた。簡素な玄関の扉とは違う華やかさは、どことなく王城の門を思わせる。
その扉を開けた先には、艶やかな板張りの廊下が真っ直ぐ延びている。廊下の左側の壁には等間隔で扉が並び、右側の庭は一面苔に覆われた深い緑色の絨毯。さらに向こう側には屋敷の高い塀が見え、塀の裾には小川が流れている。小川は比較的幅が広いが浅く、底に敷き詰められた石の隙間を縫うせせらぎのが耳に心地よい。
緑の庭は晴れた空から降り注ぐ目映い光に照らされて、生き生きとしている。リキは目を細めた。
「ここから先が宿泊者の部屋です。一番奥が北都殿の部屋、リキ殿にはこちらでお休みいただきます」
廊下を進んだ一番奥の扉の前で立ち止まり、モウギは促した。他の部屋の扉よりも一回り大きく、装飾が施されている。
「リョショウ殿はこちらです。何かありましたら部屋に置いてある鈴を鳴らしてお知らせください、侍女が駆け付けますので」
隣の部屋を指して丁重に告げると、モウギは廊下を戻っていった。リョショウは彼を見送ることもなく、
「じゃあ、俺はこっちだから、お前もゆっくり休めよ」
と言って部屋へと入っていく。扉が閉まるのを見送ってリキも部屋へと入っていった。
リキは部屋見回して、目を見張った。都督府の殺風景な部屋とは違い、見るからに立派な調度品が置かれ、壁や床の艶やかさから丁寧に掃除が行き届いていることが窺える。
一番奥の寝室の窓から見える手入れされた花壇には、色鮮やかな花が咲き誇っている。寝室の隣の部屋にはテーブルとゆったりした椅子がおかれ、向こう側には開け放たれた縁側がある。
滑らかな縁側に触れた足の裏から、日差しを溜め込んだ温もりがじわじわと伝わる。それを感じながら踏み出すと、緩やかな風が頬や髪を撫でながら通り過ぎていく。
うんと伸び上がり、大きく息を吐いて空を見上げた。体中に染みてく温もりを感じながら目を閉じて、風の音に耳を澄ませる。
いつの間にか琴の音色は消え、見上げた空の陽は、緩やかに傾き始めている。
リキは目を開けて息を吐き、ゆっくりと縁側に腰を下ろした。