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第九章 祭りの影に (10)

 二人は都督府を出てモウギと数人の兵士らと共に、王城に隣接する建物へとやって来た。

 周囲を高い塀に囲まれた建物の門を潜ると、正面に一回り小さな門が現れる。もちろんそれぞれの門には、きりりとした表情の衛兵が立っている。


「警備が厳重ね、こちらはどなたの屋敷?」

「屋敷ではありません、東都を訪れる官僚のための宿舎ですよ」


 と答えたのは、リキの目の前を歩くモウギだった。彼は都督府で見せた笑顔とは全く異なる、親しげでにこやかな笑顔を見せる。

 その豹変ぶりにリキは呆気に取られ、顔を引き攣らせた。リキ自身はリョショウに問い掛けたつもりだったのだから。リョショウは知らん顔で、敷地の中を見回している。


「こちらの宿舎はリキ殿の故郷である北都の都督殿や官僚のため、隣が西都のための宿舎です」


 モウギはリキに歩幅を合わせ、隣に並んで丁寧な口調で話す。じっとリキを見つめて、目が合うと笑みを浮かべて。視線を逸らしたリキはちらりとリョショウを窺うが、相変わらず敷地内へと目を向けている。リキにはリョショウが、わざとモウギに関わらないようにしているようにも思えた。


「そうですか、北都と西都で分かれているのですね、建物の造りは違うのですか?」

「いいえ、全く同じです。同じ建物が隣り合わせに建っているのです。内装も調度品もほとんど変わりませんが、中庭だけが違うのですよ」

「中庭があるの? どう違うの?」


 リキが興味を示したように尋ねると、モウギは待っていたと言わんばかりに笑顔で大きく頷く。


「こちらは北都の山河に、隣の西都は大河の河原に似せた庭が作られてます」

「西都を流れる(こう)のことね、どちらも見てみたいわ」

「それは出来ません。本日は祝賀祭のため、西都の都督殿一行が宿泊されています。それに宿泊されていない時も関係者以外は立ち入ることは禁じられているのです」

「そう、残念だわ……でもここには入れてもらえるのね」

「はい、もちろんリキ殿には一番良い部屋で休んでいただきます。ゆっくりと寛いでください」


 しつこいぐらいの笑顔で話すモウギをリキの肩越しに見ていたリョショウは、


「じゃあ早く案内してくれ、俺は疲れた」


 と吐き捨てるように言って足を速めた。気付いて後を追うリキを振り向きもせずに。





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