第九章 祭りの影に (9)
「ところで、陛下にはいつ会えるの?」
からかうようにいつまでも笑うリョショウを睨んで、リキが口を尖らせる。
「焦るな、もうすぐ案内してくれるだろう」
リョショウは落ち着いた口調で返した。
リキは目を丸くした。さっきまで苛立ちを露わにしていたとは思えない。
「さっきの人が案内してくれるのかしら? 彼だけね、あなたのことをちゃんと分かって接してきたの」
するとリョショウは黙って、椅子にもたれ掛かって目を逸らす。その顔に再び不機嫌な色が覗き始めていることに気づいて、リキは口を噤んだ。
二人の静寂を遮るように、窓から琴の音色が零れてくる。
耳を澄ませようとした時、部屋の扉が開いた。
「お待たせして申し訳ない」
早足で部屋に踏み込むモウギの口から出たのは謝罪の言葉だったが、顔には薄らと笑みを浮かべている。振り向いたリョショウの目に険しさが滲むのを、リキは見逃さなかった。
「よくぞ御無事で帰還されました、しかも陛下を祝福する今日帰って来られるとは、まさに喜ばしいことです」
モウギはにやにやしながら席に着く。
彼の後に続いてきた兵士は無愛想に一礼し、部屋の扉を閉めた。
確認したリョショウは体勢を整えて、モウギに問う。
「北伐での件、北都の状況については既に聞き及んでいると思うが、陛下は何と?」
「はい、東都殿とコウリョウ殿のことは本当に無念でなりません、リョショウ殿だけでも帰還されて何よりです」
モウギは先ほどまでの笑顔から一変して、顔を曇らせた。涙ぐんでもいないのに、目元を拭う仕種がわざとらしく見える。はぐらかすような態度に、リキは首を傾げた。
「すぐに援軍を派遣するよう陛下にお願いしたいのだが、いつ会える?」
リョショウが見据えると、モウギは言葉を失ったかのように口を開けて遠い目をする。そして軽く頷いて見せた。
「本来ならばリョショウ殿も祝いの席に参列して当然ですが、今は混乱を招き兼ねません。明日、陛下にお目通り出来るよう手配しましょう」
モウギの口調はどこか嫌みたらしく、二人を疎ましくさえ思っているように感じられる。
「リキ殿もお疲れでしょう、今日はゆっくり休んでください」
リキに向けて笑顔を見せるモウギを、リョショウは気に入らないと言わんばかりに見据えていた。