第九章 祭りの影に (7)
「それは出来ません。誰も通すなとの命を受けております」
兵士らは余所余所しい態度で答えた。
「誰の命令だ、私が誰か分かっているのか」
口調に穏やかさを保ちながらも、不快感を露わにするリョショウの表情が険しさを増していく。彼の横顔を見つめるリキは、何とか穏便に収まるよう祈るしか出来ない。
「もちろん存じ上げておりますが命令ですので、何とぞ御容赦ください」
兵士らは頭を下げた。リョショウに引き下がるよう頼むように。
そして再び体勢を整える。その様子はいかにも、早く去ってくれと言っているように見える。
彼らを見据えるリョショウは唇を噛み、拳を握り締める。感じ取ったリキが歩み寄るより早く、リョショウが踏み出した。
「この屋敷の主は私の父だ、主の他に誰が命令出来るというのか、命じた者の名を上げ、今すぐ門を開けろ」
リョショウは声を荒げ、兵士の一人に掴み掛かる。彼の形相に怯みながらも、兵士らは押し返そうと抵抗する。
「待って、落ち着いて」
「お前は黙ってろ」
制止しようとするリキの腕を振り切り、リョショウはさらに食ってかかる勢いだ。それでもリキは何とか抑えようとするが、抑えられるものでもない。
門前での騒ぎは、通りにいた数名の兵士の目にすぐに留まった。彼らは駆け付け、リョショウを取り押さえようと揉み合いが始まる。リキはなすすべなく弾き出され、成り行きを見守るしかない。
すると、リョショウが右腕を庇いながらふらついた。その隙に兵士らが一斉に、リョショウを取り押さえる。
「離せ! 俺だと分かっているのだろう、これは誰の命令だ、答えろ!」
怒りを露わにしたリョショウの元へと、リキが慌てて駆け寄る。リョショウは痛みを忘れたかのように、兵士らを振り切ろうとする。彼を何とか和らげようと、リキは何度も彼の名を呼んだ。
しかしリョショウの怒りを和らげたのは、一群に呼び掛けた男の声だった。
「何事だ、何があった」
声の主は一群の中にリョショウを認めて、はっとした。肉付きのよい体格をした若い男は、リョショウより十歳ほど年上に見える。身につけた甲冑の装飾から、揉み合っていた兵士らよりも身分が高いことが分かった。
「モウギ」
肩で息をしながらリョショウが発すると、名を呼ばれた男は口元に笑みを浮かべた。