第九章 祭りの影に (6)
茶屋を後にした二人は大通りへ出て、都督府の建物を見ながら大通りと城門とが交わる角を曲がった。
すると城郭と都督府の間には、大通りと変わらない幅の広い通りがまっすぐ延びている。大通りと違って歩く人の姿は大通りより少なく、見られるのは物々しい格好をした兵士の姿しかない。
「ここは高官と役人しか通らない。庶民には関係のない役所や高官の屋敷しかないからな」
きょろきょろと辺りを見回すリキを見て、リョショウは笑った。
道行く兵士らの物珍しげな視線が、時折二人に注がれる。どこか窺うような猜疑心を含んだ視線は重く、なんとも言えない息苦しさを伴う。
都督府の建物の壁が延びて塀と繋がっており、通りを挟んで城郭と並走している。
「建物と塀が繋がってるの?」
「さっき見ていた建物は客を待たせておく役割だ。この塀の裏側にちゃんと広場も都督府の建物もある」
「北都と作りは違うのね、屋敷とは繋がってないの?」
リキは背伸びしたが、背丈の倍ほどもある塀の向こうは覗くことなど出来きるはずはない。リョショウは塀の向こうを指差した。
「ちゃんと繋がってる、広場の向こうの都督府の裏口を出て屋敷に出入り出来る。北都と同じだよ」
「でも北都より大きいわ、ここから建物が見えない……広場も大きいんでしょう?」
「ああ、確かに北都よりは大きいな」
塀を見上げて笑いながら歩く二人の前に、固く閉ざされた大きな門が現れた。
門の前には、槍を手にした兵士が二人立っている。たわいない会話を交わしていた兵士らは、リョショウとリキの姿を認めて口を閉ざした。ばつが悪そうに表情を引き締める兵士らに向かって、リョショウが踏み出す。
すると兵士らは手にした槍を握り締めて、きっと睨んで身構えた。
その様子に不安を感じたリキは、思わず手を伸ばす。不意に袖を掴まれたリョショウは、足を止めて振り返った。
「大丈夫、俺の屋敷だ」
不安を払拭するように微笑んで、リョショウは兵士らへと歩み寄る。槍を握りしめる兵士らの手が、緊張感を帯びて震え出す。
「開けてくれないか」
リョショウの口調は穏やかだが、兵士らは威圧感に表情を引き攣らせる。そして互いに戸惑いを露わに、顔を見合わせた。