第九章 祭りの影に (5)
リキは興味深げに彼らの行方を追った。
城門を離れた衛兵が向かったのは、大通りと城門とが交わる角にある二階建ての大きな建物だ。
門がなく塀に囲まれていない建物には装飾が少なく簡素だが、いかにも強固な雰囲気が漂う。大通りに面した建物の入口の両脇には城門と同じように厳重な装備の衛兵が立っており、彼らは出入りする兵士らに会釈したり挨拶を交わしている。建物を出入りするのは、同じような装備の兵士ばかりだ。
「もしかして、ここが東都の都督府?」
閃いたと言わんばかりにリキが目を見開くと、リョショウは口角を上げて頷いた。
「ああ、そうだ。北都とは違うだろ?」
「ずいぶん違うわ、北都みたいに塀に囲まれていないし……庭はないの? 演習の時はどこに集まるの?」
リキはくるくると目を輝かせて尋ねる。
その好奇心旺盛な表情を見つめていたリョショウは、頬杖をついて微笑んだ。東都に着いた安心感に似ているが、少し違う感情に胸を擽られるような感覚に僅かに戸惑いながら。
北都の都督府は塀に囲まれていて、演習の際には何百人もの兵士が集まることの出来る広場がある。塀の中には都督府の建物もありるというのに、東都の都督府には塀もなく、庭も建物さえもないように見える。
大きいが剥き出しの建物には不釣り合いなほど、出入りする兵士の数は多いように思えた。
「あの建物自体が門みたいなものなんだ。いや、櫓と言った方がいいかもな、あの建物の奥にちゃんと庭もあるんだ」
「じゃあ、都督府の役割をする建物はどこにあるの? あの建物の奥? それとも他の場所にあるの?」
次々と溢れ出る疑問を投げ掛けられたリョショウは、困ったように笑って首を傾げた。空を見つめた彼の顔は呆気に取られているようにも、答えを渋るようににも見える。
リョショウを見つめたまま、リキはじっと答えを待つ。
「よし、見に行くか?」
不意に身を乗り出して、リョショウが都督府を指差した。いつか見たことのある悪戯な笑顔で。
その答えを待ち構えていたと言わんばかりに、リキは大きく頷く。
「もちろん、行きましょう」
きっぱりと言って、迷うことなく立ち上がる。リキがにこりと笑うとリョショウは咄嗟に目を逸らし、待てと言いたげに片手を挙げながら慌てて茶を飲み干した。