第九章 祭りの影に (4)
城門を背に大通りを望むと、まっすぐ進んだ突き当たりにもう一つ城門の櫓がある。
城門に近づくにつれて大通りの両脇に建ち並ぶ商店の数は減り、厳かな門を構えた高い塀を持つ屋敷が目に付くようになってくる。通りに面した大きな門は分厚い扉で閉め切られ、門前には必ず衛兵が一人、二人立っている。高い塀の向こうを覗き見ることは出来ないが、東都の高官らの邸宅に違いない。
大通りの突き当たりにある城門は先ほど潜った城門よりも規模は小さいが、細部にまで装飾が施された外見は立派で威厳を感じさせられる。城門の上部の櫓も見張り台と言うよりは、装飾品のように見える。城門の左右に延びた塀の向こうには、緩やかな孤を描く屋根が覗いている。
城門の両脇を固める衛兵の数も必要以上に多く、警備は厳重のようだ。
「ここから先が王城だ、今日は祭だから警備がいつもより厳重なんだ。普段はこんなに兵士はいない」
物々しい様子に黙って見入るリキに、リョショウが言った。
リキは頬杖をついて、城門を見つめたまま小さく頷く。
二人は王城の城門を望むことが出来る大通り沿いの茶屋で休んでいた。
祭で賑わう王城に突然乗り込んだとしても相手にされるか分からない。城門の様子を眺めながら、入るべきタイミングを窺っているのだ。
リョショウは椅子の背にもたれ掛かり、空を仰いだ。空高くから照らしていた日は、既に西の空に傾き始めている。腕を組み、ぼんやりと空を見上げるリョショウにリキが問い掛ける。
「見て、急に集まって話し始めたけど何かあったのかしら? ほら、みんな表情がすごく険しくなってる」
顔を上げたリキの視線の先を追い、リョショウは向き直った。
城門の前に衛兵たちが集まり、何やら話し込んでいる。先ほどまでいなかったと思われる衛兵の姿もあり、兵士の人数が増えている。全員で十数名ほどだろうか。
彼らは険しい表情を崩すことなく一通り話し終えると、一礼して約半数の衛兵が城門を離れて歩き始めた。歩いて行く兵士らの表情が、話し込んでいた時と比べて緩んでいるのが分かる。
「いや、交替の時間らしい」
「そうなんだ……そうよね、彼らも交替しなきゃね、ずっとそこにいるわけないわね」
恥ずかしそうに頬を染め、リキは目を逸らす。彼女を見つめながらリョショウは頬杖をついて、にこりと笑った。