第九章 祭りの影に (3)
東都の城門の前に立つと、匂いが変わった。
城門の向こう側の東都の街も、さっき通ってきた街と何ら変わらぬ祝福の色に染まっている。しかし街では感じられなかった刺々しさを帯びた匂い。
それは城門の両脇で、険しい表情で睨みを利かせている衛兵らの存在によるものだろうか。
東都の街に入るためには彼らの間を通り、城門を潜らなければならない。人々は賑やかな街での浮かれた表情を一変させ、顔を強張らせる。
「さすが東都、祭りとはいえ警備に抜かりはないわね」
肩を竦めたリキは、自らの肩から足元までをくまなく見回して振り向いた。
するとリョショウの肩から覗いた細長い物が目に留まる。リョショウが背負っている物は何重にも布地に包まれて一見すると何であるか分からないが、中身はもちろんリョショウの剣だ。
「それは大丈夫かしら?」
「これぐらい大丈夫だ、もし何か言われたなら事情を話せばいい」
不安な表情で訊ねるリキを安心させるように、リョショウは穏やかに微笑む。
「そうね、私たちは悪いことをしにきたわけじゃない。それにあなたは東都都督の息子だもの」
思い出したように笑って、城門の先へと視線を向けた。幅の広い通りの賑わいを掻き分けた正面にはっきりと見える王城。そこに蔡の国の王がいる。
二人は顔を見合わせて小さく頷くと、城門へと踏み出した。
城門の上部は櫓になっているため奥行きがあり、思ったよりも長く感じられた。
突き刺さるような衛兵の視線を避けるように、リキは自然と俯き気味に歩いていた。早足で通り抜けてしまいたい気持ちだが、足を速めたために逆に怪しまれても面倒だ。
何も悪いことをしているわけでもないのに、見張られている緊張感がリキの胸を締め付ける。隣を歩くリョショウは顔を上げ、衛兵に怖じない様子で堂々と通り抜けていく。
城門の陰を抜け、東都に足を踏み入れたリキはほっとして顔を上げた。
「何てことなかったわね」
晴々した顔で振り返るリキとは違い、リョショウの表情には僅かな戸惑いが見て取れる。
リョショウは城門を振り返った。そこに立つ衛兵の視線はもはや二人でなはく、城門を通り過ぎていく人々へと向けられている。
「どうしたの?」
「いや、何も……行こう」
リョショウは戸惑いを振り切るように言うと、城門に背を向けて歩き始めた。