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第九章 祭りの影に (2)

 老いた男が人波の中に消えていくのを見送り、リキはくるりと振り返った。腕を組んで口を尖らせるリキを見て、リョショウは呆れた顔で苦笑する。


「私、もしかして舐められてるのかしら?」

「気をつけろ、お前が上ばかり見てるからだ。ほら、もうすぐだぞ」


 リョショウが指差した先、並んだ商店の軒先の装飾の遥か向こうに城壁の屋根が左右に伸びているのが分かる。リキは目を見開いて、うんと背伸びした。


「見えた、近そうに見えるけど……歩くと意外に遠いの?」

「そうだなぁ、日が暮れないうちには着くから安心しろ、ここから北都まで行くよりはよっぽど近い」

「びっくりさせないでよ、今夜も宿を探さなきゃいけないかと思ったわ」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 逃げるように北都を出てから、ここに来るまでに宿で一晩を越した。その間ずっと考え続けていた。一刻も早く東都の蔡王に直接会って、北都の現状を伝えなければならない。助けを求めなければ、北都で待つ父や兄や皆の身に危険が及ぶかもしれないと。

 その不安と緊張のため会話を交わすことも無かったが、ここに来てようやく二人は笑顔を取り戻すことが出来た。道中の穏やかな風景が心を解し、華やかな街の空気が二人の気持ちを和らげたのだろう。 


 再び忙しく流れゆく人波に身を任せて、二人は歩き始めた。肩を並べて歩く二人は一見すると、兄妹か恋人同士にしか見えない。二人が東都都督の息子リョショウと北都都督の娘だと気づく者もいない。先を急ぐ人々には誰とすれ違ったなどと確認する余裕さえ持たない。


 いつしかリキは、人波を見渡しながら歩いていた。その中に何かを探すように、ひとりひとりの顔をくまなく覗き込むように。

 不意にリョショウと目が合ったリキは、慌てて目を逸らす。


「あの城壁の向こうは、ここよりもっと賑やかでしょうね」


 リキが咄嗟に取り繕うように訊ねると、リョショウは驚いた顔をして答えた。


「ああ……陛下の生誕祭だからな、東都は初めてか?」

「うん、行事にはいつも父と母だけ。兄は何度か参加してたけど、私は留守番専門よ」

「そうか、だったら楽しみだな、こんな時に言うのもおかしいが……」


 穏やかに笑うリョショウに、リキは頷き返して振り返った。その視線を追いながら、リョショウは唇を噛んだ。





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