第八章 蔡国の王 (7)
空は高く青く澄み渡り、眩い朝の日差しが窓辺を明るく照らし出している。
光射し込む広い部屋の真ん中に置かれたベッドは一見小さいように見えるが、傍に立つ男性と見比べると決して小さいのではなく、逆に通常より大きいことが分かる。さらに部屋の壁際に置かれた家具が小さく感じられるのも、この部屋が遥かに広いためだろう。
この部屋の主はベッドの傍らで両腕を広げて深呼吸すると、光に誘われるように窓辺に歩み寄る。
「いい天気だ、気持ちがよい」
澄んだ空を見上げて、王は大きく息を吸い込んだ。
誰に話し掛けている訳でもない。部屋には彼一人しかいないのだから。自らの生誕を祝う日に相応しいとでも言いたげに口角を上げた顔には、昨夜の酔いは全く感じられない。
「入っていいぞ」
ふと王は振り返り、部屋の扉へと呼び掛ける。
すると声を合図に分厚い扉が軋み音と共にゆっくりと開き、二人の侍女が現れた。
「失礼致します」
二人は声を揃えて王に向かって深く礼をして、足元に置いてある大きな木箱を抱え上げた。それは二人の侍女が両手を広げて抱え上げるほどの大きさで、表面は丁寧に塗られた漆によって歪みなく艶やかに光り輝いている。
「ずいぶん待たせてすまなかった、昨夜はよく飲んだおかげでよく眠れた、もうこんなに日が昇っているとは驚いた」
王は高らかに笑う。昨夜の宴のため、今朝は普段よりも遅い起床だったのだ。
彼女らは王が目覚めて呼び掛けがあるまで、扉の外に控えていることななっている。今朝は相当待たされたのだろう。
しかし二人は表情を変えることなく静かに木箱を置き、再び頭を深く下げた。
王が固く口を結んで頷くのを合図に一人が箱の蓋を持ち上げ、もう一人が中から一筋の皺もなく畳まれた衣を取り上げる。王は自ら着ていた薄い衣を脱ぎ棄て、二人が広げた衣に袖を通した。
一人が腰紐を結んでいる間に、もう一人が足元に脱ぎ捨てられた薄い衣を素早く片付ける。
その上から同様に衣を重ね、最後に黒く張りのある外衣を羽織り、太い金色の帯で結んで体裁を整えて足元へと垂らす。
「ご苦労」
眉をしかめて小難しい顔をしていた王は身支度を終えると表情を和らげ、侍女に労いの言葉を掛けた。