第八章 蔡国の王 (5)
王はふて腐れた表情で玉座の肘掛けにもたれ掛かり、広間を見渡した。
列席者たちの誰もが陽気な表情で酒を酌み交わし、この宴を心から楽しんでいるように見える。それはあまりにも当然のことだった。王のために開かれた祝いの席を楽しまないというのは、王を祝福しないのと同じことだ。王を否定していると受け止められても仕方ないだろう。
しかしその一角にはさほど酒に酔った様子もなく、冷静さを失わない目をした二人がいる。広間の賑やかな雰囲気に飲み込まれる様子は微塵も感じられない。何やら語り合っているようだが、おそらく北都の一件についてであろう。イキョウとシュセイの二人は、明らかにこの場から浮いている。
彼らの様子を見ていた王は杯の酒を呷って、大きく息を吐いた。
「彼らは何をしに来たのだ、祝いの席を台無しにするつもりか」
「彼らはこの国のことを真剣に考えているのでしょう、ありがたいことではないですか」
鼻息を荒げる王を太子ギョクソウが宥める。すると王は、ますます気に入らないと言わんばかりに顔をしかめた。
「なんだ、お前は私よりも彼らの味方をするというのか、彼らに何か入れ知恵でもされたのか?」
王が顔を真っ赤にする訳は酔っているためか、それとも怒っているためなのか。もはやそれさえも分からなくなるほど酒を飲んでいたが、滑舌は意外とはっきりとしている。
ぶっきらぼうに酒を注げと突き出した杯を返して、ギョクソウは穏やかに首を振る。
「私はどちらの味方でもあります。この国のことを誰よりも大切に考えているのなら、当然彼らに味方すべきでしょう」
「彼らがこの国のことを? ここは私の国だ、私以上にこの国のことを大切に考えている者がいると言うのか? 余計な口出しは無用だ、彼らの発言は目に余る」
王は子供のように口を尖らせて、ギョクソウに食ってかかる。
「この国を治めるのは父上ですが、この国に住むすべての人民のものでもあります。それに誰も口出ししなくなっては、いつしか国は滅びてしまうでしょう。この国の繁栄のためにも、広く意見を求めることは大切なことだと私は思います」
尤もな答えに反論する余地はなく、言いくるめられた王はそっぽを向いてしまった。