第八章 蔡国の王 (1)
緩やかな円錐状に聳える天井には、一面の濃い青色の空が広がっている。
そこに描かれているのは、悠々と浮く白い雲を散らさんと羽ばたく一対の鳳。天井の中心にある丸い天窓から差し込む光を目指して、まっすぐに力強く舞い上がっていく。
天窓から差し込む神々しい光は、広間の中央で舞う一人の若い女性をまばゆく照らし出していた。
年は二十歳ぐらい。きりりとした顔立ちに、丸く大きな瞳。舞に合わせたたおやかな動きが、彼女の華奢な体を逞しく感じさせる。
緋色に金色の小さな花の刺繍を散りばめた衣に身を包み、結い上げた艶やかな髪には、花びらを模した金色の髪飾り。それは舞に合わせて揺れながら、光を浴びて輝きを放つ。
まるで彼女自身が花であるかのように、しなやかに広間を舞い踊る。
彼女を取り囲むように広間に配置されたテーブルには、正装した百人以上の人々。皆が彼女の舞に視線を注ぎ、息を呑む。
「どうだ、見事であろう」
広間を見渡せる壇上の玉座で、ゆったりと体を預ける男が目を細めた。得意げに撫でつける豊かな顎髭には、ところどころに白い髭が覗いている。
彼の深い黒色の正装の両肩には金色の刺繍が施され、細やかな珠玉が飾られている。戴いた冠には天を仰ぐ鳳が羽を広げた姿が刺繍され、彼がこの広間の中でも特別な存在であることが一目で分かる。
「はい、素晴らしい舞だと思います」
隣に座る若い男は、淡々と答えた。
彼の衣装もまた濃紺色の生地に金色の刺繍が施された正装で、冠を戴いている。彼は落ち着いた様子で、彼女の舞を見つめていた。
まもなく舞を終えた彼女は玉座の前に跪き、僅かに息を切らせながら顔を伏せて口角を上げた。
広間の一同が今にも拍手を送ろうと身構えたまま見守る中、玉座の男は顔を綻ばせて立ち上がる。
「素晴らしい、見事な舞であったぞ。カレン、明日の本番には今日以上の舞を見せてくれるのだろうな、楽しみにしておるぞ」
「はい、陛下ありがとうございます」
カレンは恥ずかしそう頬を染め、再び頭を伏せた。
「さぁ、こちらで休みなさい」
陛下と呼ばれた男は、満足げに笑みを零しながらカレンを招いた。そして玉座に近い席に彼女が着くのを見届けると、広間に集まる人々に拍手を促した。