第二章 迫る不安の影 (1)
北都の街は賑わっていた。
北都の街の城門を潜り、大通りを都督府へ向かって悠然と進む東都軍を北都の人々の沸き上がる歓声が迎える。
北都は四方を高い城壁に囲まれている。城壁の中には農耕地が広がり、その奥の城壁の中には人々の住居や生活を支える店が立ち並んでいる。さらにその奥には都督府を囲む城壁がある。
東都軍の隊列の中で前方の騎兵に続く輿にゆったりと体を預け、顎鬚を蓄えた男が東都軍の都督だ。深みある燻し銀の甲冑を纏った彼の眼差しには、鋭さと威圧感が溢れている。
その後ろには物資を積んだ馬車と騎兵、歩兵が隊列を乱すことなく続いている。
今回援軍として派遣されたのは、東都軍の一部だ。
しかし蔡の軍事力の中枢を司る東都軍という精鋭が加わることで、北都の人々は安堵と共に戦への勝利を確信していた。
リキはいつものように、ソシュクの屋敷の縁側にいた。
武装したソシュクがリキの傍を慌ただしく通り過ぎていく。東都軍を迎えるために都督府へと向かわなければならないのだ。
ハクランは一足先に都督府で東都軍を迎える準備に追われていた。北都第一の武将の息子とはいえ、成人して一年目の若年層の士官として働かなければならない。
「リキ、支度しなくてもいいのか? そろそろだろ?」
「だって、私は迎えには呼ばれてないから。後でこっそり見に行くわ」
と、リキは両手を挙げて伸び上がる。
「しかし……今夜の宴には出なきゃならんのだろ?」
「うん、それは強制的みたいね」
「じゃあ、あとでな」
笑顔で出かけていくソシュクを見送ると、リキは立ち上がった。
見上げれば、深い青色の空には雲一つなく澄みきっている。リキは優しい風を頬に感じながら、ソシュクの屋敷を後にした。
リキは侍女と共に都督府の城門の上から、東都軍の入城を眺めていた。
北都の人々の歓声に迎えられた東都軍の列の中、東都都督の輿の後に二人の騎馬の武将が続く。二人ともハクランやシュウイと同じ年頃のようだ。
「あれは?」
リキが訊ねると、
「東都殿のご子息です。右がコウリョウ様、左が弟のリョショウ様。リョショウ様は今年成人されたばかりと聞きました。これが初陣でしょう」
と侍女は答えた。リキは彼らの後ろに続く騎馬の男性に目を留めた。
「その後ろは?」
「カンエイ様です。あの方は東都殿に続くお方です」
リキは首を傾げた。
なぜか彼の表情の固さと目つきに、他の東都軍の兵にはない違和感を覚えて。