第七章 置き去りの心 (12)
穏やかな朝日に照らされて、リキは屋敷の門をくぐった。
見上げた空は澄み渡り、淀みない青が眩しい。目を細めたリキの視界が、揺らめいている。目元を拭った指先に、小さく煌めく雫。リキは息を吐いた。
カンエイの屋敷へはリキと侍女の二人で行くため、シュウイとはここで別れる。
重い足取りのリキは、顔を上げた。
リキの目の前には、カンエイの部下が一人。リキの後ろには侍女が歩き、その後ろを二人の部下がついて歩いている。
振り返ると、門の脇にはシュウイが一人立っている。門番は屋敷の中へと払ったようだ。
目が合うと、シュウイは小さく頷いた。
「早く歩いてくれよ、俺達がカンエイ殿に怒られるだろう」
先頭を歩く部下がぼやきながら背を向けた。
それが合図だった。駆け出したシュウイが二人の部下を一気に抜き、先頭の部下へと踊りかかる。手には剣を握り締めて。
気付いた二人の部下が剣を抜くよりも早く、先頭の部下が呻き声を上げる間もなく倒れ込む。
「お前、どういうつもりだ!」
「くそっ、逆らう気か!」
二人の部下が剣を振り上げ、シュウイに襲い掛かる。
「リキ! 行けっ!」
ゆるりとかわして、シュウイは叫んだ。
彼の剣の刃先に映る日差しがリキを導くように輝いている。その光から目を逸らし、リキは唇を噛み締めた。足を踏み出すことが出来ない。
「何をしている! 早く行けっ!」
「逃がすかっ!」
リキを取り押さえようと掴み掛かる部下の前に、侍女が立ちはだかる。
「お前、また邪魔をするか! 容赦しないぞ!」
と叫んだのは、先ほども侍女に邪魔された男だった。見開いた目に怒りを露わにして、剣を突き立て侍女に迫る。
しかし彼もまた、呻き声をあげて倒れていった。シュウイがもう一人の部下を斬り捨てるのと、ほぼ同時に。
侍女は左手に握った両刃の剣を収めて、リキを振り返った。
「ぼんやりしないで、さっきみたいにやってくれていいんだぞ。段取りが台無しだ」
手を掛けた頭巾の影から、リョショウが笑みを浮かべる。
「待て、それは取らなくていい、早く剣を隠せ」
「このままヤツを討ちに行ってもいいんだが?」
シュウイが睨みつけると、リョショウはくすりと笑って頭巾を目深に被った。