第七章 置き去りの心 (11)
屋敷の玄関では三人のカンエイの部下が、待ちくたびれた様子でリキを待っていた。玄関の壁にもたれ掛かった彼らは、退屈そうに欠伸を連発する。
すると玄関へとまっすぐ伸びる廊下の先に、浮かぶ人影。それを見とめた部下たちは、顔を上げて向き直った。
「待たせて申し訳ない」
と言って、シュウイは三人を見据える。
一瞬怯んだ三人はシュウイの背後にリキの姿を見つけて、にやりと笑った。
「遅かったじゃないか、カンエイ殿がお怒りになるぞ、早くしろ」
部下の一人が顎をしゃくり、リキを促す。手を伸ばして歩み寄る部下を、シュウイは素早く遮った。
「お待ちください、侍女を伴にすることをカンエイ殿にお許し願いたい」
リキの後ろには、頭巾に隠した顔を伏せた侍女が付き従っている。距離を置いているが、彼女はリキよりも頭ひとつ分ほど背が高い。
カンエイの部下たちは顔を見合わせて首を傾げたが、すぐに納得した。
「いいだろう、カンエイ殿に伝えておこう、もうここには戻れないだろうからな」
部下たちに連れられたリキは、目を伏せたまま外へと向かう。傍らから母が目を潤ませて、リキの手を取った。縋りつくように固く握り締めた手に、涙が零れ落ちていく。
「リキ、ごめんなさい」
「母さんは何も悪くない……私こそ許して、私はいつも母さんや皆のことを思ってるから」
リキは両手で母の手を包み込み、固く握り返した。次々と零れ落ちる涙が、玄関の敷石に染みていく。母の手の力強さと涙が、リキの胸をきつく締め付ける。リキは心の中で何度も母に謝った。
「何をしてるんだ、早くしろ」
部下の一人が怒声を浴びせながら、リキと母を無理矢理に引き離す。その場に崩れ落ちた母に伸ばしたリキの手を、もう一人の部下が掴もうとして手を止めた。
リキの後ろに控えていた侍女が、部下の前に立ちはだかったのだ。
「お前、何のつもりだ!」
「お待ちください、急ぎましょう、カンエイ殿がお待ちかねでしょう」
咄嗟にシュウイが制止する。
今にも侍女の胸倉に掴みかかろうとしていた手が空を掴む、部下は悔しげな表情で舌打ちをした。