第七章 置き去りの心 (7)
廊下の角を曲がったリキは、目を見張った。リョショウの部屋の扉が開いている。普段は必ず閉めていて、開けていることはないはずだというのに。
リキは素早く剣を抜き、部屋へと飛び込んだ。
すると剣を手にした男が二人が、驚いた様子で振り返る。彼らはカンエイの部下に間違いない。
その向こう側には、リョショウが右腕を押さえ跪いている。リョショウはリキに気付くと、苦しげに顔を上げた。
リキの足元には、リョショウの剣が横たわっている。
「北都の娘か、北都の逆賊を匿っているのかと思ったら、思わぬ収穫だよ」
「こいつが何者か知ってるんだよな? さあ、逆賊はどこに匿ってる? カンエイ殿も喜んでくれるだろう」
男の一人がにやりと笑い、リョショウに剣を向けた。肩で息をするリョショウの首に、男の剣の刃先が突き付けられる。
「やめなさい、すぐに剣を下ろしなさい」
リキは剣を男らに向けて構えた。
「お前こそ、そんな物騒な物を女の子が持つもんじゃない、危ないだろ?」
と言って、もう一人の男がリキの方へと近付いてくる。手にした剣をぶらりと揺すり、カンエイに似た厭らしい笑みを浮かべながら。
リキの視線は彼の向こう側、剣を突き付けられるリョショウの方へと注がれている。
「しかし、わざわざ国境まで探しに行ってた物が、まさかこんな所で見つかるとはなぁ!」
剣を突き付けていた男が、リョショウを思い切り蹴り飛ばした。リョショウは苦しげに呻き声をあげて、床に倒れ込む。
「東都殿の息子だと? たいしたことないくせに!」
男がリョショウに向けて剣を振り上げた瞬間、彼の背後で鈍い呻き声と床に落ちる音。
はっとした男は剣を振り上げたまま、振り返った。そこには床に倒れ込んだ男と、それを見据えるリキの姿がある。
「まさか、お前か? 嘘だろ?」
慌てて男は、リキに剣を向けた。リキは怒りに満ちた目で男を見据えて、静かに剣を構える。
「剣を下ろしなさいと言ったはずよ、聴こえなかった?」
「くそっ、女のくせに! 痛い目に遭いたいか!」
叫びながら振り上げた男の剣は、振り下ろされる前に床に転がり落ちていく。男は目を見張ったまま、その場に崩れ落ちて動かなくなった。