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第七章 置き去りの心 (6)

 カクヒらが都督府へと向かった後、リキは自分の部屋へと戻った。

 こんな時だから一緒の部屋にいるようにと引き留める母を、シュウイはそっと宥めた。リキの気持ちを察して、一人にさせてやってほしいと。

 そして部屋に戻るリキに、「絶対に部屋から出るな」と付け加えた。


 シュウイに感謝しつつ部屋に戻ったリキは、自らの剣に手を伸ばした。シュウイと母に申し訳ない気持ちを抱きながらも、胸には固い決意を秘めて。

 ハクランらの捜索のためにカンエイの部下たちが、いつ屋敷にやって来てもおかしくない状況だ。もし屋敷に来たなら、捜索のため屋敷中を調べられることだろう。

 そうなれば屋敷の奥の部屋に匿っているリョショウが見つかってしまう。さらにリキが恐れているのは、この騒動に気付いたリョショウが部屋を出てしまうことだ。

 リキは剣を手に、部屋を飛び出した。早くこの危機をリョショウに知らせなければと。


 窓の外を気にしながら、リキは稽古場の向こうのリョショウの居る部屋へと向かう。

 急ぐリキの耳に響く微かな音。それは扉を開閉する音に似ている。

 足を止めて振り返り、廊下の向こうの闇の中へと神経を研ぎ澄ます。しかし、そこには人の気配を感じ取ることは出来ない。

 リキは縁側へ出て、中庭を見渡した。庭木の影やに目を凝らしてみても人の気配はなく、屋敷の外を行き交う兵の足音と、皆が集まる都督府の方向からのどよめきが辛うじて聴こえるだけだ。

 見上げた空に星はなく、曇った雨上がりの湿気に満ちた空気が重苦しい。


 稽古場へと振り返ったリキの耳に、微かな金属音が響いた。

 それは擦れ合うような音を立ててすぐに消えていったが、決して気のせいでも聞き間違いでもない。リキは確信した。それは剣の触れあう音に違いない。


 さらに耳を澄ませると、再び剣の触れ合う音と何かがぶつかり合うような鈍い音。

 その瞬間、血の気が引く感覚と共に胸の奥から一気に込み上げる不安がリキを突き動かした。

 音は確かに稽古場の奥の、リョショウの潜む部屋から聴こえてきた。何かが起こっている。どうか無事でいて欲しいと願いながら、リキは廊下を全力で駆けた。




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