第七章 置き去りの心 (3)
深夜、雨が上がって間もない都督府の庭に北都軍が跪いていた。
彼らの前方には、ハクランらに襲われた時とは異なる衣装に着替えたカンエイが座っている。その両脇を囲むように数十人の配下を従えて。配下の者たちは皆、厳重に武装したままの格好であることから燕との国境莱山から急ぎ駆け戻ったことが窺える。
「逆賊は陣営が寝静まるのを見計らい、雷雨に紛れてここへ戻った。おそらく莱山へ向かう前から計画していたのだろう。雨は予想外……いや、ヤツらにとって好都合だったのかもしれんな」
カンエイが怒りに満ちた目で見つめる先、北都軍の最前列にはカクヒが頭を垂れた。カクヒの後に控える北都軍も皆、彼に続いて頭を下げる。
彼らを見据え、カンエイは大きく息を吸い込んで肩を揺らした。
「逆賊はお前たちの中の若い兵共だ、お前たちも当然企てを知っていたのだろう?」
「いいえ、申し訳ありません。我らは何も存じ上げず……本当に北都の若者たちが企てたとは俄には信じ難く……」
「信じられないだと? 私がこの目で見たのだ、私が見間違えたというのか? それとも嘘をついていると言いたいのか!」
地に額がつくほど深々と頭を下げるカクヒに向かって、語気を荒立ててカンエイは立ち上がった。背後に控える部下を振り返る。
すると並んだ部下の間から、男が突き出された。年はハクランと変わらないぐらいの若い士官。肩を小刻みに震わせて、明らかに怯えている。
彼を一目見たカクヒは唇を噛み、僅かに目を逸らした。彼が北都軍の一員であることは間違いない。
「この男は、北都軍の者に間違いないか?」
「はい、間違いありません」
僅かな動揺を抑えながら、カクヒは静かに答えた。
「陣営から逸れ、莱山の中に潜んでいたところを確保した。あの豪雨で仲間から逸れたのか、逆賊に加担するのが怖くなって自ら身を隠していたのか……そこまでは分からんが、私にすべて話してくれた」
北都軍の若い兵はカンエイに肩を叩かれ、大きく体を震わせる。
彼を見つめるカクヒは思った。カンエイに保護された理由はどうであれ、彼が裏切りではなく事前に自分に知らせてくれれば何かが変わっていたのかもしれないと。