表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/204

第六章 雨に流されて (13)

 僅かに残ったカンエイの配下を蹴散らしながら、ハクランたちは屋敷を飛び出した。

 静かに雨が降り続く中、足を止めて辺りを窺う。激しかった雨足は弱まり、既に雷鳴は聴こえない。屋敷へと押し寄せる軍勢の音は、はっきりと耳に届いてくる。

 切迫した空気の中、ハクランたちは顔を見合わせた。そして無言のまま何かを確かめ合うと、軍勢と反対の方へと駆け出す。


 彼らの後に続こうとするリキの腕をハクランが掴み、引き留めた。


「待て、このまま屋敷に戻れ。お前は何も見なかったんだ」


 リキにはハクランの言葉の意味が、理解出来なかった。遠ざかっていく皆の方を振り返り、ハクランの手を振りほどこうとする。


「何を言ってるの、私も一緒に行く」


「だめだ、早く戻れ。お前は俺達と共にいたわけじゃない、なぁ? 分かるか」


 諭すような口調のハクランの顔は穏やかだが、その手は固く握りしめたまま離れない。

 確かにリキはカンエイに呼び出されて都督府に来ただけで、ハクラン達が来ることなど知らなかった。だからといって、リキには知らぬ振りなど出来るはずがない。


「ハクラン、お願い、私も力になるから」


 ハクランは首を振った。


「失敗だ、ヤツは俺たちを追ってくる。必ず戻ってくるから、それまで待っていてくれ」


「嫌だ、こんな所で待ってるぐらいなら、一緒に……」


 言い掛けるリキを、ハクランは咄嗟に抱き締めた。リキの高ぶる感情を静めるように、しっかりと包み込む。


「必ず戻るから信じて、耐えてほしい」


 ハクランの穏やかな声が、リキの体に染みていく。

 今ここで離れてはいけないという思いが、胸の奥で疼いている。もう二度と、ハクランと会えないかもしれない。


「ここでお前にしか出来ないことを……俺も強くなって戻るから。信じてくれ、俺はいつもお前のことを思ってる」


 リキの気持ちを解すような優しい声。こんな時に相応しくないほどの温かさに満ちている。


 縋るように回そうとしたリキの手を避けるように、ハクランは身を翻した。ハクランを追うリキの手が、虚しく空を掴む。

 やがて彼の背は、暗闇の中に消えていく。追い掛けたい思いを堪えるリキの頬を伝い落ちる雫は、雨に混ざりながら消えていった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ