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第六章 雨に流されて (8)

「なぁ、私の元に来ないか? 悪いようにはしない、寧ろ幸せにしてやろう」


 カンエイの手が、リキの頬に触れた。


「止めてください! 誰がそんなこと!」


 全身の毛が逆立つような感覚に襲われたリキは、カンエイの腕を払い除けて立ち上がった。その拍子に倒れた椅子が床に叩きつけられたが、その音は雨音に消されて耳に届かない。

 リキはカンエイを睨み付けたまま、大きく息を吸い込んだ。今にも臆してしまいそうな気持ちを、奮い立たせる。


「まったく……リキ殿は面白い方だ」


 カンエイは口元に笑みを浮かべ、目の前に倒れた椅子を無造作に蹴飛ばした。リキの脇からテーブルに手を伸ばし、杯に溢れんばかりの酒を注ぎ入れる。


「リキ殿もいかがかな? 気持ちが落ち着きますぞ」

「結構と申しておりますが、聞こえませんか?」


 リキが一瞥すると、カンエイは杯を手に取りって一気に飲み干す。刺々しさを帯びた目つきに変わっていくカンエイに、部屋を訪れた時の穏やかさは全く失ない。

 その穏やかさが虚構であったと、リキは改めて理解した。


「どうして私を刺激する? 私は、お前のような女が好きなんだよ」


 カンエイは声を張り上げて、杯をテーブルの上へと放った。

 激しい雨音に負けないほどの力強い口調と共に、荒々しい表情に豹変したカンエイにリキが僅かに怯む。

 その隙をカンエイは見逃さなかった。


「これ以上、私を怒らせるな」

「痛っ、何をするのです!」


 カンエイはリキの腕を掴み上げ、あっという間に取り押さえた。固く口を閉ざしたカンエイは無表情で、冷酷な瞳が不気味さを増している。

 そして抵抗するリキを、部屋の奥へと進んでいく。あの時の忌まわしい記憶が蘇り、リキは恐怖した。助けてくれたリョショウは今ここにはいない。


「離しなさい!」


 真っ白な閃光が部屋を照らし、地響きを伴う雷鳴がリキの声を掻き消していく。


 部屋の奥に運ばれたリキは、無造作にベッドの上に突き落とされた。起き上がる間もなくカンエイの肉付きのよい体がリキに覆い被さり、息苦しさに声を上げる。


「いい声だ……怯えなくていい、大人しくすれば優しくしてやる」


 生暖かく酒臭い息がリキの鼻先に触れ、咄嗟に顔を背けた首筋にカンエイが食らい付く。ゆっくりと這わされる異物の感触に、リキは歯を食いしばった。こんな男に屈するものかと。





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