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第一章 温かな風 (5)

 日が傾き始めた空が朱に染まり、照らされた庭の木々の影が縁側に映って揺らめいている。

 木々の影に寄り添うように、リキはソシュクの屋敷の縁側に腰掛けていた。都督府での姿とは一変して結った髪を解き、鎧を脱いで軽やかな上衣と裳の普段着姿のリキは投げ出した足をばたつかせている。


「兄さんはいつも女だからって馬鹿にするんだから……私だって力になりたいのに」


 と言って、リキは唇を噛んだ。

 兄に怒鳴られたことは今回が初めての事ではない。今までにもリキが男勝りな行動を起こした時、兄には度々怒られている。


「シュウイはリキのことが大切だから危ない目に遭わせたくて、きつい言い方をしているんだよ。本心じゃない」


 不満を爆発させるリキを何とか鎮めようと、ソシュクは懸命に宥めるが簡単には収まらない。

 シュウイに否定されるほどリキの反発は高まり、何とかして認めてもらいたいという気持ちが抑えられない。


「そうじゃない、兄さんは女を軽視しているだけなのよ。昔からずっとそうだった……私だって兄さんと同じように稽古してきたのに何が違うの?」

「リキの言うことも分かるが、私は自ら危険を冒し矢面に立つために武術を教えてきたわけじゃない。分かるだろ?」


 と優しく微笑むソシュクを見上げて、リキは口を尖らせた。


「じゃあ、姉さんのように嫁入り前の女子の嗜みとして?」


 リキの姉サイシは、ソシュクの元で十七歳まで武術を学んでいた。それは都督の娘としての嫁入り前の嗜み程度のものだった。しかしリキは十八歳になったが、稽古を止めるつもりはない。


「嗜みでは済まないから続けているんだろ? ちょっとした士官じゃリキには敵わないだろう」


 と、ソシュクは苦笑した。


「嗜み程度ではいざという時に何の役にも立たない。女性でも男性と対等に渡り合える力を持つべきよ。私はそのために励んできたんだから」


 誇らしげに言うリキの凛とした横顔が、夕日を浴びて温かな色に染まる。

 リキが稽古に没頭するのはハクランの影響も大きかった。歳が近いハクランと共に稽古を続ける中でさらに強くなりたいとリキは思っていた。


「しかし自分から敵に立ち向かう力よりも」

「大事なものを守るために使う力の方が大切、でしょ?」


 言いかけたソシュクの言葉を遮り、リキはにこりと笑った。




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