第六章 雨に流されて (5)
庭の木々の葉を叩く雨音が、静かな部屋に響いていた。
薄明かりが灯されたカクヒの部屋に、リキとカクヒと母が集っている。カクヒは腕を組んで灯かりを見つめ、母は不安の映る目元を拭っては溜め息を零した。二人とも口を閉ざしたまま、目を合わそうともしない。
塞ぎ込んだ空気が漂う部屋の息苦しさを避けるように、リキは窓の向こう側へと目を向けていた。未だ降り続く雨音に耳を傾けて。
あの後すぐに宴会は切り上げられ、リキらはソシュクの屋敷へと戻ってきた。
しかしリキは、再びカンエイの元へと向かわなければならない。元は自分たちが住んでいた屋敷の、カクヒの部屋で待つカンエイの所へと。
「リキ、すまない」
カクヒは目を伏せ、唇を噛んだ。肩を落とした彼の顔には、悔しさが滲んでいる。
「お父様、謝らないで。私は大丈夫、心配しないで」
リキは凛として言った。
両親の不安を少しでも拭い去りたい気持ちが、リキを堂々と振る舞わせる。
すべての原因は自分にあると責任を感じていたが、後悔はなかった。
カンエイの部下を始め、宴席でのカンエイらの態度と発言にどうしても我慢出来なかった。思わず反論したためにカンエイの怒りを買い、リキは一人呼び出されることになったのだ。
こんな雨の中をカンエイのために捜索に駆り出されたハクランやソシュク、皆のことを考えると黙って聞き流せなかった。
さらにリョショウの悔しさを思うと、どうしても言い返さずにはいられなかった。
一人でカンエイの元へと向かうリキを、カクヒと母が心配しないはずはない。カンエイの真意は、分かりきっているのだから。リキ自身もカンエイの部屋に行くということが、何を意味するのかは分かっている。
「私も、ついて行こう。カンエイ殿に話してみよう」
腕を組んで、窓の外を見つめていたカクヒが振り返る。
その言葉に、母ははっとして顔を上げた。
「それがいいわ、貴方が何とか話してください。そうすれば……」
「いえ、大丈夫。一人で行けるから」
「何を言ってるの? また余計な事を言ったりしたら……ねぇ、分かってるの?」
動揺して声を荒立てる母を宥めるように、カクヒが肩を抱く。
リキは二人に歩み寄り、
「心配しないで、話を付けてくるだけだから」
と言って、母の手を力強く握る。
母の頬を一筋の滴が流れ落ちた。