第六章 雨に流されて (4)
「あの二人が生きている可能性はあると思うか? もし生きていたら、どうするべきだと思う?」
カンエイは顔を近づけて、挑発的に微笑んだ。そんな態度にも決して臆することなく、リキはカンエイを睨みつけている。
「カンエイ殿、どうぞこちらで飲みませんか」
見兼ねたシュウイが歩み寄り、カンエイを促す。しかしシュウイの言葉など届かぬ様子で、カンエイはリキを見据えたまま動かない。
カクヒと母は心配そうに顔を見合わせた。
「もし生きていたら、一番困るのはあなたでしょう。討たれる可能性があるんだから」
リキは凛として言い放った。
カンエイの口元がぴくりと震える。周りで見守っていた皆が息を呑み、カンエイの顔色を窺っているのが分かる。
シュウイがさらに険しい顔をして、リキを睨みつける。
「私が討たれると? なかなか面白いことを言うじゃないか、リキ殿」
酔って重くなった瞼を引き攣らせて、カンエイは苦笑する。その表情から明らかな焦りを感じ取ったリキは、得意げに微笑んだ。
「面白い? 気を付けないといけないんだから、本当は怖いんじゃないの?」
「リキ、口を慎めっ!」
声を張り上げて駆け寄るシュウイに、カンエイは手を翳して制止した。懸命に穏やかな笑顔を作ろうとするカンエイの心が、決して穏やかではないことは誰の目にも分かる。
広間の張り詰めた空気の重苦しさに皆が動きを封じられ、二人をただ見守っている。
カンエイの肩越しで、シュウイは唇を噛んだ。
「リキ殿、私が東都殿など恐れると思うか? 恐れているのなら、こうして私が北都を治めることもなかったであろう?」
「そうでしょうね、あなたは恐れを知らない人でしょうね」
差し伸べられるカンエイの手が頬に触れそうになる。
それを寸前で避け、リキは淡々と言い返して背を向けた。広間を出て行くつもりだった。
「リキ殿」
引き留める声にリキが振り返ると、
「後でゆっくりと話がしたいのだが、私の部屋まで来てはくれないか。無理にとは言わないが……なぁ、カクヒ殿もよろしいかな?」
と言って、カンエイは嫌悪感に満ちた目で微笑んだ。
リキは動じることなく、カンエイを見据えている。その向こうで、カクヒは愕然と唇を震わせていた。