第六章 雨に流されて (3)
俄雨と思われた雨は夕刻になっても止むことなく、激しさを保ったまま降り続いていた。
リョショウの部屋を出たリキは、稽古場の縁側で足を止めた。
空を見上げて思うのは、ソシュクとハクランのことだった。この雨にも関わらず、莱山で捜索を続けているのだろうかと考えると胸が痛んだ。
「嫌な雨ですなぁ、これでは捜索の陣営は身動き出来ませんな。気の毒に……」
都督府の広間に入ったリキに向けて、カンエイの部下の一人が呟いた。その言葉に反して、彼は嘲笑うかのような笑みを浮かべている。
「そうね、これでは捜索なんて出来ないわね。残念だけど」
と言ってリキが睨むと、彼は肩を竦めて目を逸らした。
リキらは、カンエイに都督府に呼び出されていた。兵が出払い閑散とした都督府の広間で、カンエイは宴を催すという。
リキも呼ばれるまま否応なしに連れて来られたものの、本当は面白くない。出来るだけカンエイから離れた席に着き、目に留まらないよう息を潜めている。母はカンエイの傍で懸命に酌を振舞い、機嫌を取っている。カンエイの注意を、リキから逸らそうと取り繕っているように。
カンエイの傍にはカクヒとシュウイがいる。相変わらずカンエイに媚びるかのように、服従する様子がありありと窺える。二人とも決して真意ではないと分かってはいるが、リキはその姿をまともに見ていられない。
リキは堪らず、ほっと一つ溜め息を零した。それに気づいたのか、カンエイがリキへと目を向ける。口元に厭らしい笑みが浮かんだのを、リキは見逃さなかった。
咄嗟にリキは顔を伏せ、素知らぬ振りで食事を続ける。しかしカンエイの視線は逸れることなく、リキに注がれたままだ。
「カンエイ殿、いかがなさいました?」
異変に気付いたカクヒの問い掛けに答えることなく、カンエイは立ち上がった。そして当たり前のように、リキへと向かってくる。
困惑するカクヒの隣りで、シュウイはリキを責めるような目で見据えている。
カンエイは足を止め、
「なぁ、リキ殿。東都殿とあの息子は見つかると思うか?」
と、気付かぬ振りを装うリキの顔を覗き込んだ。
リキは酒臭さに眉をひそめ、ゆっくりと顔を上げた。微睡んだ目で真っ直ぐに見下ろすカンエイは、あの時と同じ顔をしている。
リキは込み上げる嫌悪感を、懸命に押し殺す。