第五章 憂心と現実 (9)
「東都都督と息子ら残党をすべて探し出し、必ず捕らえてくるのだ」
カンエイは都督府に集められた兵の前に立ち、声を張り上げた。その表情には明らかな焦燥感が滲み、東都都督らの生存をよほど恐れていると窺える。
捜索へ向かうのはソシュクをはじめとする北都の主力部隊と、カンエイの配下たちだ。都督府にはカクヒとシュウイ、カンエイが一部の部下と残ることになる。
都督府の門を出て行く兵を見送りながら、カクヒは疲れた様子で溜め息を吐いた。
カンエイに乗っ取られたとはいえ、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった北都に再び混乱が起きることを危惧しているのだろう。
シュウイの言うようにどんな形であろうと、北都の人々に平穏な生活を約束することが父の一番の願いなのだと痛いほど伝わる。
リキは居た堪れず、目を逸らした。続々と出て行く隊列の中に、ハクランの姿がある。
出ていく際の意味ありげなハクランの態度を気に掛けながら、リキは祈りを込めて見送った。
「今こそ、ヤツを討つ絶好の機会だな」
リョショウは剣を握りしめて、にやりと笑った。
剣を得たリョショウはベッドから起き上がり、剣を振るい感触を確かめている。
「やめて、早まらないで」
「いや、今を逃したら二度とこんな機会はないかもしれない」
リキが宥めるが、リョショウは今にも飛び出しそうに両手で剣を握りしめて構える。しかし傷が痛むのだろう。利き手を庇っているのが、リキの目にも分かった。
「まだ、痛むの?」
リキが遠慮がちに訊ねると、リョショウは僅かに顔を強張らせ、唇を噛んだ。剣を固く握り締める手が震えている。
「お願いだから早まらないで。傷が完治したら、きっと私もソシュクも力になるから。それまでは待ってて欲しいの」
口を噤んだまま、リョショウは握り締めた剣の刃先を見据えている。リキはリョショウを真っ直ぐに見つめた。リョショウの機嫌を損ねてしまっても、今は何としても思いとどまらせたいと。
「絶対に部屋は出ない……と言ったはずだ、俺は約束は守る」
リョショウはゆっくりと振り向いた。口元に笑みを零して。
「ありがとう、私もあなたの力になると約束しますから」
リキは大きく頷いた。