表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/204

第五章 憂心と現実 (8)

「お前も頑固だな」


 リョショウが吹き出した。どこか優しい目で白い歯を覗かせる笑顔は、あの時と同じようにあどけなく感じられる。

 突然笑い出すリョショウにつられ、リキも肩の力が抜けて自然と笑みが零れる。


「いいだろう、約束しよう。何があったか教えてくれ」


 リキは頷き、ゆっくりと息を整えた。


「都督府に兵が召集されてるの。東都殿とあなたの捜索のために」


 顔を強張らせ、リョショウは口を固く結んだ。その目がみるみる鋭さを増していく。

 その顔色を窺いながら、リキは慎重に言葉を選ぶ。


「彼はあなたたちの安否を確認していないから疑って……莱山(らいざん)で捜索を始めると言い出して、今朝兵を召集をしたようなの」


 リキは口を噤んだ。黙って耳を傾けていたリョショウは、


「面白い、捜してもらおう」


 と、笑みを浮かべる。冷ややかな目は翳した剣の刃先を睨み、あたかもカンエイを見据えているようだ。


「何を言ってるの? 見つかったらどうなるか、わかってるでしょ」


 リョショウが今にも部屋を飛び出してしまいそうで、リキは咄嗟に宥める。

 しかし目を逸らしたリョショウはリキではなく、カーテン越しに窓の外を見据えた。


 いつしか窓の外の慌ただしい音は消えていた。都督府に兵が集結しきったのだろうか。


「何故、隠れる必要がある?」


 沈黙を破り、リョショウは呟いた。


「何故って、傷は完治していないのよ? それで何が出来るの?」

「じゃあ何故、俺に剣を返した? アイツを討つためじゃないのか」


 声を荒立てるリキに対して、リョショウは穏やかな口調で問い掛ける。


「違う、あなた自身を守るためよ。それに私は、危険を冒してまで討ってほしいとは思わない」


 リキは大きく首を振った。

 何と言えばリョショウに伝わるのだろうと、頭の中で様々な言葉が溢れては消える。口に出した言葉が、余計に彼を逆撫でているように思えて。


「俺にアイツは討てないというのか、お前は、俺には無理だと言ってるのか?」

「そうじゃない、今はまだ無理だって言ってるの。出来ないなんて言ってない」


 リキは目を潤ませ、唇を噛んだ。

 

「出来ないじゃない、やるんだ。たとえ相討ちになろうとも本望だ」


 リョショウは苦笑した。

 穏やかな声だったが、リキには彼の強く固い決意がはっきり感じ取れた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ