第五章 憂心と現実 (6)
ハクランの態度に不安を感じながら、リキはソシュクを探した。
ソシュクの部屋には姿がなく、リキはすぐに身を翻して稽古場へと向かう。既に都督府へと向かっているのだろうか、ソシュクが何も告げずに行くはずはない。
すると稽古場から廊下へと踊り出た人影が、リキに気付いて振り向いた。
「リキ、探したぞ」
ハクランと同様に武装したソシュクは安堵しながらも、表情には焦りが感じられる。リキは息を整える間もなく、ソシュクに駆け寄った。
「ソシュク、どういうこと? 何があったの?」
「ヤツが、東都殿とリョショウの捜索を始めると言い出した」
ソシュクの言葉に、リキは目を見張った。胸が押し潰されるような感覚に襲われる。
「どうして今さら……」
「昨夜、誰かがヤツに進言したんだ。東都殿は討ち取ったことになっているが、誰にも確認されてはいない。確認されたのはコウリョウ殿だけだ。東都殿は行方不明となったままだから疑わしいと、リョショウも同じことだ」
ソシュクは顔を曇らせた。
カンエイは東都都督を討ったものの、その死を確認していないらしい。険しい山中であったためリョショウと同様、崖から転落したからだという。東都都督の長兄コウリョウだけはリョショウを庇い、カンエイらに討たれて死が確認されている。
カンエイは死を確認出来なかった東都都督とリョショウが生きている可能性を配下に指摘され、莱山での捜索を始めることを決めたのだ。
北都を手中に収めたとはいえ、カンエイは不安なのだろう。
もし東都都督が生きていたとしたら東都へ戻るはずだ。そうすれば今は沈黙している蔡王は、東都都督に軍を預けてカンエイを逆賊として討つように命じるであろう。たとえカンエイの背後に燕が繋がっていようが、軍を派遣するのは間違いない。
「捜索は莱山で行われる。私も行かねばならんが、後のことをくれぐれも頼んだぞ」
ソシュクは声を押し殺し、念を押した。リキの肩に置いた手に力を込めて。
その手から沁みる力強さが、リキの不安を決意へと変えていく。
「はい、分かりました」
大きく頷き、リキは口を固く結んだ。
ソシュクの目を真っ直ぐ見つめて、必ずリョショウを守り通すと固く誓って。