第五章 憂心と現実 (4)
戸を開けると、きっと睨みつける鋭い視線。リキに注がれるリョショウの冷ややかな眼差しは突き刺さるように痛く、毎日部屋を訪れていてもなかなか慣れることが出来ない。
「またお前か」
リョショウの強張った表情がみるみる緩んでいく。
リキの姿を確認すると、テーブルに肘を突いて読んでいた本を閉じた。
傷が少しずつ癒えてきたリョショウは、ベッドの上から椅子へと移動出来るようになった。ようやく気持ちも落ち着き、状況を理解出来たようにソシュクとの約束を守って部屋に籠る日々を過ごしている。
リキは毎日リョショウの元へ通い、あまり変化のない近況などを伝えていた。慎重に言葉を選んで。
「まぁ、それもそうだろうな」
と言って、リョショウは苦笑した。
リョショウが動揺するかもしれないと不安はあったが、シュウイのことを話したのだ。
「兄さんの言うことも、北都のことを真剣に考えていることもよく分かるけど、どこまでが本心か分からないし……でも、頭ごなしに言うこともないと思うわ」
リキは目を伏せた。
シュウイのリキに対する態度はいつものことだが、今回はどうしても納得がいかない。兄が本当に正しいことを見失っているように感じられる。
「表向きはアイツに絶対服従を誓ってるってことか? 覚られないように身内まで騙してるのか……しかし徹底してるなぁ」
リョショウは感心して、口元に笑みを浮かべる。
「感心しないで、兄さんは本当に頭が固すぎるのよ」
「北都の人々か……もしかすると北都のことを一番考えているのは、お前の兄さんかもしれないな」
再び苛立ち始めるリキに、リョショウは穏やかな声で言った。決してリキをからかっているのではなく、真剣な顔をして。
その言葉に、リキの気持ちが僅かに揺らいだ。
「どうかしらね、兄さんはいつも私を目の敵にして、まともに話を聞いてくれたことなんてないんだから」
「兄の威厳っていうやつか? しかしアイツは都督として認められたいのか? まだ燕と繋がっているかもなぁ……」
「それで王も軍を動かさずに様子を見てるの? 都督に認められても困るんだけど」
リキがふて腐れて答えると、
「だろうな。まぁ、俺には北都の人々のことなど関係ない。アイツを討つまでのことだ」
リョショウは頷き、頬杖をついて笑った。