第四章 秘密を抱いて (8)
「お前、面白いとこがあるな」
ぽつりと零したリョショウは空になった食器を差し出し、笑みを浮かべた。
それを受け取るリキも、自然と笑みが零れる。リョショウが食事を完食したこと、ようやく警戒が解けたのか笑顔が見られたことが嬉しい。
しかしリキは、すぐにむっとした表情に変わった。
「それは褒めてるの? それと、私の名前はまだご存知ではありませんでしたか?」
リキが突っ返すと、リョショウは苦笑した。
もちろん、リキの名を忘れているわけではない。それはリキも分かっていて聞き返したのだから。
「すまない、何か動きはありそうか?」
「いえ、まだ……でも、何かあったら真っ先に知らせますから」
「そうか、わかった」
リョショウは顔を曇らせる。
東都の援軍を気にしているのだろう。狭い部屋に篭ったまま外の様子も分からず、不安が募るのも無理はない。
何の動きも知らせもないことは事実だったが、不安を与えないような答え方が出来ないことがリキにはもどかしかった。
目を伏せるリキにリョショウは、穏やかな声で呼び掛ける。
「あの時、俺は兄さんに助けられたんだ」
あの時とは、北伐でカンエイが造反を起こしたときのことだ。
話していいかと問うような目で見つめるリョショウに、リキは黙って頷いた。
「父さんが部隊を進めるようにアイツに指示をした。だが、アイツは燕の軍とともに戻ってきた。俺達に向かって……どうすることも出来なかった」
リョショウは声を詰まらせ、唇を噛んだ。
その膝の上で、固く握りしめた拳が震えている。込み上げる悔しさを懸命に抑えようとしているのが、痛いほど伝わってくる。
「父さんと逸れて追い詰められて、兄さんは……俺を崖から突き落とした。俺を庇って、助けようとして……だから今、俺はここにいられるんだな」
ふと顔を上げたリョショウの目から、堪え切れなくなった滴が頬を伝い落ちていく。
彼に共鳴する胸の奥から、カンエイに対する憎悪が蘇る。憎しみの気持ちなど、愚かなものでしかないと分かっているのに。
「俺は必ずアイツを討つ。兄さんと父さんの仇を……必ず」
歯を食いしばり、拳を震わせるリョショウの潤んだ瞳にリキは感じていた。
いつか必ず、リョショウが北都を取り戻す力になってくれるはずだと。
そして自分も強くなりたいと。