第四章 秘密を抱いて (7)
ソシュクとハクランが都督府へ出かけていくと、リキはリョショウの部屋へ向かった。
皆が出かけて閑散とした屋敷だったが、こっそりと人目を避けて朝食を運ぶ。
リョショウの部屋の戸の前に立ち、押し寄せる緊張感に流されてしまわないように息を整えた。
静かに戸を開けると一番に目に飛び込んでくるのは、ベッドで体を起こしたリョショウの姿。リキに向けられた視線は決して好意的ではなく、警戒心に満ちている。
それでもリキはほっとしていた。ちゃんと部屋に居たのだから。
「おはようございます、傷の具合はいかがですか? 朝食をお持ちしました」
リョショウは小さく頷いたが、すぐにカーテンに閉ざされた窓の向こうへと目を逸らす。
溢れんばかりの朝日を受けたカーテンが、心地よさげに揺らいでいるように感じられる。窓は閉め切られているから風を感じることは出来ないが、それは緩やかな風にそよいでいるようにも見えて。
「外はとてもいいお天気ですよ、まだ食欲は出てきませんか? すぐには無理かもしれませんが、一口でも食べてください。傷も早く治るはずですから」
すると、リョショウが振り向いた。
彼に通じたと顔が綻びそうになったリキだったが、そうではなかった。
「俺はまだ、お前たちを信用出来ない」
リョショウはリキを見据え、言い放った。
昨夜と同じ冷ややかな目をしているが、刺々しさは若干和らいでいるようにも見える。
苛立ちとじれったさを感じながらも、リキは彼の頑固さに感心した。
リキは大きく息を吐くと、
「信用出来ないのはよく分かりますが、食べないと体力も回復しません。飢え死にするつもり?」
と、リキは語気を強めた。
そしてテーブルをベッドへと引き寄せ、リョショウのすぐ隣に腰を降ろした。素早く食器を手に取り、粥をひと匙掬い上げる。
「ほら、食べて。まさか毒でも入ってると思ってる?」
匙を口元に突き付けられて、リョショウは顔を強張らせて僅かに怯んだ。
「何のつもりだ」
「毒なんか入ってないわよ」
と言うと、リキは匙を自らの口へと放り込む。
「ほら、ただのお粥。あなたの命なんかより、私には北都の方がよっぽど大事なんだから」
唖然とするリョショウの手に食器を持たせ、リキは真っ直ぐに彼の目を見据えた。