第四章 秘密を抱いて (6)
早朝、リキは屋敷の縁側にいた。
本を手に空を仰ぐと、大きく息を吸い込む。目を閉じると、昨夜のリョショウのことが思い出される。
リョショウの傷が完治するまでに、東都の蔡王は兵を動かしてくれるのだろうか。それまでリョショウは不安に耐え、おとなしく部屋に篭ってることが出来るのだろうか。
カンエイが討ったはずのリョショウがここに居る。それも乗っ取られた都督府と屋敷のすぐ傍にあるソシュクの屋敷だ。
様々な憶測と共に込み上げる不安に、押し潰されそうで苦しい。
リキは深呼吸して目を閉じた。少しでも気持ちを落ち着かせようと、ゆったりと息を整える。
「よっ!」
と、再び目を開けたリキの前に、ハクランの姿が勢いよく飛び込んだ。
「わっ!」
驚いてバランスを崩して、後ろに倒れるリキにハクランが素早く手を伸ばす。慌てたリキの手が、空を掴もうと泳いだ。
「何やってんだよ。大袈裟に驚きすぎだよ、居眠りしてたのか?」
「ハクラン、やめてよ……びっくりしたじゃない」
無邪気に笑うハクランに支えられながら、リキは体を起こした。
不意に力が抜けて、口を尖らせたリキの表情が和らぐ。背中に触れたハクランの大きな手。じんわりと染み込むような温もりが、心地よさと懐かしさを呼び起こす。
リキの胸の奥から北伐の出征前の記憶が鮮やかに蘇り、鼓動が大きく速くなり始めた。
ハクランの大きな腕に包みこまれると、リキは身を委ねるように静かに目を閉じた。
互いの鼓動が共鳴しながら、安心感に包まれていく。
「なぁ、リキ……心配するなよ」
ハクランの胸に押し当てた頬から、低く静かな声が響いた。その声は限りない穏やかさに満ちていたが、リキの胸の奥に大きな揺らぎを起こす。
「え?」
「俺が守ってやるから、お前は何にも心配するなって」
顔を上げると、ハクランはにこりと微笑んだ。それはいつもと変わらない笑顔だったが、リキの胸の奥の揺らぎがうねりとなってざわめき始める。
「ハクラン?」
違和感を覚えたリキは訊き返した。
「じゃ、そろそろ俺、行ってくるわ」
リキの問いを振り払うように答えて、ハクランはそっと腕を解いた。
ハクランが去った後も、リキは胸のざわめきを抑えることが出来なかった。