第四章 秘密を抱いて (5)
「お前たちもいずれ、寝返るつもりか」
暫しの沈黙を破り、リョショウが口を開いた。
冷淡な口調で二人を見下すような目に映るのは、明らかな敵意でしかない。すぐに信用することが出来ないのは仕方ないが、何と説明すればいいのかとリキの胸はもやもやとしていた。
「お前も疑い深いなぁ、アイツから北都を取り戻すと言っただろ、私が嘘を言ってるように見えるか?」
「お前たちにアイツに対抗するだけの力があるとは……俺には思えないが」
リョショウは苦笑する。まるでソシュクを小馬鹿にしたような態度に、ついにリキの我慢が限界に達した。
「馬鹿にしないで! 私たちにだって出来るわよ!」
ぐいと身を乗り出したリキは、リョショウの顔を見据えて声を荒立てる。
思いがけないリキの行動にリョショウは一瞬目を見張ったが、すぐに平静を取り戻して呆れた表情に変わった。
「リキ、落ち着け。今すぐ行動することは無理だが、皆でこれからのことを考えよう」
ソシュクに宥められて、リキは我に返った。
そして恥ずかしそうにソシュクを見上げ、小さく頷いて後ろに下がる。
それを見届けると、リョショウは小さく息を吐いて再び口を開いた。
「これからというが、打つ手は考えてあるのか」
「アイツの造反後すぐに、東都へ知らせを送ってある。近いうちに蔡王が援軍を派遣するだろう」
「それは気休めか? 知らせを送って何日になる?」
「そろそろ動きがあってもいい頃だろう」
ソシュクは具体的な日数について、言葉を濁した。
今のリョショウに日数を伝えることは、余計な不安を与えかねないと躊躇われた。
実際に東都へ知らせを送ってから既に七日が経過していたが、援軍の知らせは未だにない。東都の蔡王はカンエイの造反を知っていながら、東都軍を派遣しようとはしていないのは明らかだった。
援軍を派遣しない理由については、ソシュクらにも分からない。信じて待つほかは、何の打つ手を持たないのが現実だった。
「アイツは北都には手を出さないつもりだ。今はその傷を癒すことだけを考えてろ。ただし、この部屋からは絶対に出るな、出たらどうなるのかはお前でも分かるだろう」
リョショウは不安を覚られぬように、再び念を押した。
「いいだろう」
リョショウは答えると口を固く結んだ。