第四章 秘密を抱いて (4)
「あの時、何があったのか教えてくれないか?」
「訊いてどうする?」
ソシュクの問いに強張るリョショウの顔が、みるみる嫌悪感に満ちていく。
「真実が知りたいんだ。私はアイツから北都を取り戻したい」
「馬鹿な、お前に何が出来ると思う?」
リョショウは苦笑した。
まるで嘲笑するような彼の態度に我慢出来ず、リキは飛び出そうとする。
しかしすぐにリョショウに制止され、言葉を呑み込んだ。
「教えてくれないか? 我々は先陣で何があったか知らない。知っているのはアイツが造反を起こしたことだけだ」
北伐では東都軍が先陣となって、燕国軍と対峙していた。北都軍は東都軍の後方で支援することになっていたため、カンエイの造反の状況について詳しいことは知らないのだ。
先陣で燕国軍との衝突したと思われる動きの後、カンエイが東都軍を率いて北都軍の前に現れた。
カンエイは北都の軍勢を前に東都都督を討ったことを告げ、北都軍は否応なしにカンエイに服従しなければならない状況となっていたのだ。
カンエイによると対峙していた燕国軍は、既に去ったという。
「知っているだろう、連れてきた東都軍はアイツの配下だ。北伐が決まった時、アイツが父に自分の配下を連れていくことを強引に勧めたんだ。おそらく最初から燕国と共謀していたんだろう」
リョショウは唇を噛んだ。
その目は悔しさとカンエイに対する憎悪に満ち、固く握った拳を震わせる彼の姿が痛々しい。
彼を見つめるリキにも、その気持ちは十分伝わってくる。
「燕国と内通していたのか、莱山での一件も実は怪しいのかもしれんな」
「だろうな、アイツならそれぐらいやりかねない」
込み上げる悔しさを振り払うように、リョショウは言い放つ。
莱山での一件とは、北伐のきっかけとなった燕国の民を蔡の国境警備兵が強奪した事件のことだ。この事件についても、実はカンエイに仕組まれたものだったのではないかとソシュクは言う。 援軍として派遣された東都の軍勢のほとんどはカンエイの配下で、それはカンエイの進言によるものだった。
それらを考えてもすべてはカンエイによって、最初から仕組まれていたことだと察しはついた。
三人は口を噤んだ。