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第三章 北伐 (6)

 宴席で酒に酔い哄笑するカンエイと配下の者たちを、リキは侮蔑するような眼差しで見つめていた。

 カンエイが北都の都督に就いた祝宴を催したいと言い出したのだ。

 東都軍の歓迎の宴も退屈だと思ったが、今回はそれ以上に厭悪感が湧きいて息苦しささえ覚える。それを吐き出そうとしてか、知らず知らず溜め息が漏れた。


 不本意なのだろうが、父がカンエイに気を遣って酌を振る舞っている。

 それは父だけではない。北都の者たち皆が、カンエイと配下の者たちの機嫌を窺う様子をあちらこちらに感じ取ることが出来た。


「リキ、こちらへ」


 宴席の一角から呼ばれて、リキははっとして顔を上げた。

 手を挙げてリキを呼ぶシュウイの隣りで、カクヒが僅かに眉を顰めている。カクヒは何か言いたげな唇を噛み、リキの視線を避けるように目を伏せた。

 その表情が気になりつつもリキは立ち上がり、すぐに顔を強張らせた。

 父の向かい側に座るカンエイの姿。今にも微睡みそうな目つきで、薄ら笑いを浮かべて。

 カンエイはリキを見つけると、口元を綻ばせて手招きした。


「カンエイ殿に酌を」


 リキは唖然とした。

 酒は入っているが、シュウイは真顔でリキに言った。カクヒは顔を背けたまま、杯の酒を飲み干して小さく息を吐いた。


「リキ殿に酌を振舞っていただけるとは、ありがたいですなぁ」


 カンエイが厭らしい目をして笑っている。

 リキは厭悪に震える唇を噛み、カンエイを見据えた。


「リキ殿、いかがなされた? そのように見つめられては、恥ずかしくてかないませんぞ」


 カンエイは高笑いした。

 慌てたシュウイが酌を振舞い、機嫌を取ろうとしている。リキには、そんな兄の姿が苦々しくて堪らない。


「リキ、何をしている! カンエイ殿に無礼ではないか!」

「シュウイ殿、気にしなくても結構。リキ殿に酒はまだ分からなくても仕方ない」


 リキを馬鹿にするような言葉を発して、カンエイは再び高笑いする。

 怒りに肩を震わせるリキに、父がそっと耳打ちした。


「リキ、すまない。堪えてくれ」


 穏やかな口調が、父の気持ちを映していた。

 胸に沁み込んでいく言葉に切なさを感じながら、リキは小さく頷いた。




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