表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/204

第三章 北伐 (4)

 それから間もなく都督府へ帰ってきた北都の軍勢は、カンエイが率いる東都軍に囲まれて隊列を成していた。

 北都軍の兵たちは皆、疲労と憔悴の色を漂わせている。

 北伐へ出発した際に東都都督が座っていた輿には、カンエイが堂々と身を預けていた。輿の上から北都の街を悠々と見渡すカンエイの目には、宴の夜に見た時と変わらぬ嫌らしさに満ちている。

 リキは彼に対するさらなる嫌悪感と、北都の行く末に不安を抱かずにはいられなかった。


 都督府へと帰る隊列の中に東都都督と息子たちの姿はない。

 しかし北都都督とリキの兄シュウイ、ソシュクとハクランの姿を確認することが出来た。リキは一先ず安堵したが、ハクランの表情に滲む悔しさを察して唇を噛んだ。

 戦況の偵察へ向かった老将もその中に居た。国境の北都軍と共に、カンエイの配下に拘束されたらしい。いち早く都督府へ事態を知らせた兵の一人は、辛うじて逃げ帰ることが出来たのだ。


 カンエイは拘束した北都軍を引き連れて、都督府へと入った。

 そしてリキの父カクヒが座っていた都督の座に着くと、眼下に跪く北都の軍勢を見渡して笑みを浮かべた。


「従うのなら、北都に一切危害は加えない」


 と、カンエイは服従を勧めた。さらに、


「刃向かうのであれば容赦はしない」と付け加えて。

 カンエイは項垂れるカクヒの肩に手を置き、耳元で囁いた。


「私は無駄な争い事が嫌いでね。決して悪いようには致しませんが、いかがなさるおつもりかな?」

「北都の者に決して手を出さないと、彼らの身の安全を約束していただけますか」


 と言って、カクヒはカンエイを見据えた。膝の上に固く握った拳が小刻みに震えている。

 カンエイは冷ややかな目をして、僅かに口角を上げた。


「約束しよう」


 カンエイの言葉に念を押すように頷き、カクヒはゆっくりと立ち上がる。

 集められた北都軍の兵たちをゆるりと見渡して、深く息を吸い込んだ。


「これより、北都はカンエイ殿に従うこととする。皆は決して抵抗することのなきよう」


 皆に言い聞かせるように力強い声で、言い終えると唇を噛んだ。一筋の涙が頬を流れ落ちていく。


 北都の実権をカンエイに奪われたカクヒは、都督府から追い出された。さらに都督府に隣接する屋敷を乗っ取られ、リキらはソシュクの屋敷に身を寄せることになった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ