第二十章 蒼の彼方に (3)
琴の音が鳴り止んだ後も和らいだ空気に包まれた部屋で、ギョクソウとリキは穏やかな顔で見つめ合っている。しかし二人は、互いの思いのある場所へと思いへと向いていることに気付き始めていた。
「ギョクソウ様、正直に答えていただけませんか? 貴方は私との婚姻を望んでいたのですか?」
リキの問い掛けに、ギョクソウは柔らかに微笑み返す。努めて何かを隠す様子はなく、リキを見つめる優しさに満ちた目は変わらない。琴を置いて立ち上がり、ゆっくりとリキへと歩み寄ったギョクソウは手を差し伸べた。
「はい、私は貴女と一緒になることができて幸せです。全力で貴女を幸せにしていきたい、貴女を守っていきたいと真剣に思っています。信じていただけませんか、私からのお願いです」
穏やかな表情のままギョクソウが発した声は今までにないほど力強く、リキの胸の奥へとじんと沁みていく。偽りのない澄んだ瞳には真っ直ぐにリキを映して。
沁みていく声を追い掛けながら、リキは決意した。
差し伸べられたギョクソウの手に、そっと自分の手を重ねる。
「ありがとうございます、私もギョクソウ様が幸せになることができるように、自分にできることを精一杯努力していきたいと思います」
笑顔と共に吐きだした言葉は、自分に言い聞かせるため。胸の奥に潜む影を、さらに奥深くに沈めるために強くはっきりとした口調で。
「リキ殿、リキ、ありがとう。私たちの幸せのために……私は貴女を全力で守っていきます」
まっすぐ注がれたギョクソウの目と目が合った瞬間、リキは強く引き寄せられた。ギョクソウの胸の鼓動をはっきりと感じながら目を閉じる。ぎゅっと抱き締められた腕から伝わってくるには、ギョクソウの誠意に違いない。
温もりに包まれながら、リキは静かに目を閉じた。
胸の一番深いところに沈めたものに鍵を掛けるように。