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第二十章 蒼の彼方に (2)

 柔らかな琴の音が部屋の中に満ちていく。床に腰を下ろして琴を奏でるギョクソウを見つめながら、リキは零れ落ちていく音色をひとつひとつ確かめるように拾い集めていった。

 しっとりと優しく胸に沁みてくる音。だけど何故か悲しくも感じられる音色は、まるで誰かに訴えかけているようにも聴こえてくる。それが自分自身なのか、ギョクソウ自身なのか、ここに居ない誰かに対してなのか、リキには分からなかった。


 ただ、自分自身の気持ちも今ここにはないということだけは気付いていた。


 リキは婚姻の儀で広間を見渡した際に、はっきりと映ったリョショウの姿を思い起こしていた。正装に身を包んだリョショウは険しい表情で壇上を見上げていた。彼の鋭い視線はリキに向けられたものではなく、壇上の蔡王へとまっすぐ向けられていた。周囲を気にしながら何度もリョショウを目で追ったが、彼は一度もリキと目を合わすことはなく終始険しい顔だった。それは北伐後にソシュクの屋敷に匿って間もない頃、リョショウが見せた顔に似ていて。


 そして広間で見た彼の隣りには知らない女性が座っていた。彼は既に結婚していたのだ。自分のことを思い出してくれたのなら結婚を拒むだろうと期待するのは自惚れかもしれないと思いつつも、リョショウの記憶は失われているのだから仕方ないとリキは思うほかなかった。


 リキは目を閉じた。リョショウが見せてくれた笑顔、共に西都に逃れた時に交わした言葉、触れた温もり、すべてが今でもはっきりと思い起こすことが出来る。膝に載せた手が震え出すのを抑えようと、ぎゅっと拳を握り締めた。


「そろそろ、お休みになりますか?」


 ふいに呼び掛けられて、リキは目を開けた。

 いつの間にか琴の音は止み、ギョクソウが穏やかに微笑んでいる。


「すみません、つい心地よくて……」

「いいえ、そういう曲を弾いたのですから嬉しいです」


 咄嗟についた嘘にも笑顔で返すギョクソウに、リキは申し訳ない気持ちを感じていた。同時に、ギョクソウの心はどこにあるのだろうかと考え始めていた。


 これはあくまでも蔡王によって決められた結婚だ。自分と同じようにギョクソウの心はほかにあるのではないかと。






 




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