第二十章 蒼の彼方に (1)
緩やかな円錐状に聳える天井の向こうに映る深い青色は空の色。天井を取り囲むように描かれた白い雲を散らさんばかりに羽ばたく一対の鳳が、天井の中心を目指して力強く舞い上がっている。
神々しい光を浴びた広間の中央に、ひと組の男女がある。純白の羽織に煌びやかな金色の刺繍が施された衣装に身を包んだ二人は、広間の前方の壇上へと階段を上っていく。ゆっくりと一歩ずつ足元を確かめるように踏み締めながら。
広間には二人を見守る数百以上の人々の姿。彼らを見渡せる壇上の玉座にゆったりと体を預けた蔡王は、豊かな顎髭を撫でつけながら目を細めた。
壇上に登りきった二人は蔡王に一礼した後、広間へと振り返る。その瞬間、広間は拍手の渦が沸き起こった。広間で沸き上がった拍手喝采の渦は城内にも王城を取り囲む人々の耳にも届き、東都の街を歓喜の波で包み込む。
いつまでも鳴り止まない拍手の中、王太子ギョクソウと北都都督の娘リキとの婚姻の儀は執り行われ、東都の街全体を歓喜と期待に満たして無事に終演した。
王城の一室から、静かな琴の音が漏れてくる。王城の裏の庭で耳を傾けながら、エンジュは空を仰いで目を閉じた。胸に沁み込んでくるしっとりと柔らかな琴の音は、優しくも悲しげに感じられる。
この音色は間違いなく、ギョクソウの奏でている音。ひとつひとつの音が胸に沈むたびに、体の奥が熱くなる。
「ギョクソウ様」
名を口にした途端、目の端から涙が零れ落ちていく。
いつか、この日が来ることはわかっていた。ずっと覚悟していたはずなのに、堪えられない思いが涙になって次々と溢れてくる。
エンジュは、ついにその場に崩れ落ちた。伏せた顔を両手で覆い、肩を揺らして泣くエンジュに琴の音が語りかけるように優しく降り注ぐ。
「ギョクソウ様、どうか、お幸せに……」
懸命に涙を拭ったエンジュは、王城の窓の灯りを見上げて呟いた。この声は届かないと分かっているけれど、この思いだけはいつまでも抱いていこうと決めて。