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第一章 温かな風 (2)

 振り返った先、二人が寛ぐ縁側に続く廊下の向こうから大柄の男性が近づいてくる。歳は五十歳前後、短い顎髭を湛えた彼は腰帯を解き、膝が隠れる程の丈の羽織を脱ぎながら二人の元へと向かってくる。

 ハクランと背丈はほとんど変わらないが、羽織の下から露わになった上衣姿の彼の大きな肩幅と厚みのある体格が確かな強靭さを感じさせた。


「ソシュク、おかえりなさい」


 リキは満面の笑みを浮かべ、縁側に投げ出した脚をばたつかせる。その顔を見たソシュクは、一見厳めしい顔を綻ばせた。


「お、気持ち良さそうだなぁ」


 ソシュクは羽織とともに腰帯と腰に帯びた剣を無造作に床に置くと、リキの隣りにゆったりと腰を降ろした。体を解すように空を仰ぎ、大きく息を吐く。

 そこにハクランが身を乗り出した。


「父さん、どんな感じだった?」


 ハクランが訊ねると、ソシュクは小さく頷き、


「東都殿が派兵を決めた。直に東都から援軍を連れて来るそうだ」


 と答えた。リキは不安げに彼を見上げた。


「やっぱり、燕と戦になるの?」

「いや、戦ではない。あくまでも燕に対する威嚇のつもりだろうからな、心配するな」


 ソシュクは穏やかに微笑むが、二人は不安を拭えない。


 北都は蔡の国の三都の一つで、北に位置する都だ。蔡の首都は東の東都で、西には西都がある。三都のの中枢には都を統治する都督府があり、首都東都にいる蔡王によって任命された都督がそれぞれ治めている。


 きっかけは、一ヶ月前のことだった。

 北に隣接する燕との国境に、莱山(らいざん)という山がある。

 蔡と燕の両国間の和平条約で、莱山はどちらの領土とせず侵入を禁じ、もし誤って侵入した場合も互いに侵害しないと決めていた。

 ところが、莱山に燕の民が侵入した。彼らは莱山の麓で山菜採りの最中に道に迷い、誤って蔡国側へと下山した。蔡の国境警備兵が彼らを捕らえて強奪したのだ。

 これに対して燕は激しく怒り、蔡国へ攻め込む意志を即時に表明した。蔡から燕へ陳謝の使者が何度も遣わされたが、燕は面会を固く拒み続けているという。



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