第十九章 小さな奇跡 (3)
風のない穏やかな青空の下、リキとハクランは縁側に腰を下ろした。
体に圧し掛かる重苦しい空気は、風がないからというわけではない。
もはや互いの気持ちが、再び寄り添い合うことはないと気付いていた。離れていた時間は二人にとって、あまりにも長過ぎて。
リキは大きく息を吸い込んだ。 ハクランの口から語られることに対して、絶対に大袈裟に驚いたり動揺したり取り乱したりしないと決めて。
きっと、リョショウのことだろうと大方の予想はついていた。
リョショウは必ず迎えに戻ると約束してくれた。東都での残務処理が忙しく、すぐには北都に戻ってくることができないのかもしれない。もう少し待ってほしいというのかもしれない。
憶測を巡らせるリキを振り向き、ハクランが口を開いた。
「リキ、落ち着いて聞いてほしい。リョショウのことだ」
リョショウの名を聞いて、リキは再び大きく息を吸い込んだ。見上げたハクランの横顔は悲しげに見える。
「リキがリョショウのことを思っていることは知っている。リョショウが必ず、リキを迎えに来ると約束したことも。だけど、リョショウは迎えに来ない」
かつてハクランを思い、思われていた頃の記憶がリキの胸を締め付ける。リョショウとのことを知った時、ハクランは何と思ったのだろう。裏切ったと思われても仕方ない。
それでもリョショウへの思いは本物、偽ることなんてできない。リョショウも自分と同じ思いだと信じているのに、迎えに来ないとは俄に信じがたかった。
少しずつ確実に鼓動が大きく、速くなっていく。
「どういうこと?」
「リキ、リョショウのことはもう忘れた方がいい。彼はもう、お前の知っているリョショウじゃない。彼は変わったんだ」
膝に載せた拳を握り締めて、ハクランは顔を伏せて肩を震わせる。
「ハクラン、何を言っているの? 言ってる意味が全くわからない……お願い、隠さないで。ちゃんと話して」
まさか、ハクランはリョショウのことを諦めるように言っているのだろうか。リョショウに会わせたくないから嘘をついているのかもしれないと疑い始めるリキに、ハクランは寂しい顔を見せた。
「俺達が東都に着いてすぐに、陛下が宴を催してくれた。その席で……」
ゆっくりと語るハクランを見つめるリキの表情が、みるみる強張っていく。