第十八章 愛する人へ (10)
間もなく東都に、丞相の失脚の知らせが響き渡った。
但し、失脚の理由は真実とはまったく異なっていた。北伐での東都都督の殺害計画や造反の計画などのすべての罪は亡きカンエイに被せられ、丞相はカンエイに騙されて踊らされていただけということに。
丞相の実質的な罪は、東都都督の息子リョショウを監禁したことだけとなった。その理由さえも自らの意思ではなく、何者かの進言によるもので進言した者は行方不明。
結果として丞相の勘違いによるものと理由は非常に曖昧なままとなり、罪は非常に軽いものとなった。丞相は地位を退くことになり、一家で北都の僻地への流刑を言い渡された。
この結果に、シュセイらが納得出来るわけはなかった。真実を突き止めたにも関わらず、すべてが闇に葬られてしまい真実を歪められたのだから。
それでも蔡王の下した判断には誰も反発することはできず、黙って受け入れざるを得ない。
悔しさと憤りを抱えながらもシュセイと西都都督、北都都督とソシュクとハクランらは丞相の流刑とすべての終息を見届けるために東都に留まっていた。
丞相の失脚とともに、屋敷に監禁されていたリョショウは救出された。
多量の薬を飲まされたことによる意識障害のため再び昏睡状態に陥っていたが、二日後にようやく目を覚ました。しかし意識は戻ったものの容体は優れず、王城の一室で蔡王の直属の医師から今もなお治療を受けていた。
その傍に、カレンが付き添っている。リョショウの代わりに薬を呑んだカレンは幸い薬の量が少なかったため、すぐに目を覚ました。
父が犯した罪により一家で流罪になることは分かっていた。せめてその日が来るまではリョショウに対して父に代わって償い、彼の看病をしながら回復を傍で見守っていたいと。
ベッドに横たわったリョショウは、ぼんやりと空を捉えていることが多かった。辛うじて会話を交わすことと体を起こすことは出来るが、立ち上がって歩くことは出来ない。カレンはリョショウを支えて歩く手助けをしたり、食事や身の回りの世話を率先してこなしている。
ただ一番厄介な問題は、健忘の症状だった。
リョショウは丞相に監禁されるより以前の記憶を失っていた。