第十八章 愛する人へ (5)
「カレン、何をしている……」
丞相は声を震わせ、足を止めた。目の前に、リョショウを肩に支えたカレンが居る。
なぜ、ここにいるのかという疑問と衝撃に貫かれて、それ以上の言葉が浮かばない。
「お父様、これはどういうことですか? どうして、リョショウ殿がここに居るのですか?」
きっと父を見据えて、カレンは問い詰める。
答えることができない丞相の後ろから、護衛たちが飛び出してカレンへと歩み寄っていく。カレンはリョショウを庇うように身構えた。
「お父様がここに連れてきたのでしょう? いったい、何をしようとしているのです?」
「カレン、お前には関係ない。早く部屋に戻りなさい」
丞相はカレンから目を逸らし、絞り出すような声で答えた。
護衛がカレンを挟み込み、抱いた腕からリョショウを引き剥がす。リョショウに縋ろうとするカレンの腕を掴んで、丞相は後ろから抱き締めた。
「やめて! お父様、やめさせて下さい!」
「カレン、よく聞きなさい。この男は帰ってくるべきではなかった、この男が居ては、私たちにとって必ず悪い事が振りかかるのだ」
「そんな事ありえない、どうして? 無事に生還したことを、宴では喜び合っていたでしょう?」
カレンを諭すようにゆっくりとした口調で話す丞相だったが、内心では込み上げてくる怒りを抑えられずいた。どうして、カレンがリョショウを庇うのかと。
それでも何としても分かってもらいたいと、穏やかな口調でカレンに言い聞かせる。
「私はカレンを愛している、家族を守る事を何よりも一番に考えているんだ、それはわかってくれるね?」
「わかっています、でも、それとリョショウ殿とは関係ないことでしょう?」
「いいや、関係ある。この男も東都殿も、兄と一緒に消えるべきだったのだ。それをカンエイがしくじったために、いや、コイツさえ戻って来なければよかったのだ」
語気を強める父に恐怖を抱いたカレンは、必死に腕を振り解いた。振り向いたカレンの目に映った父は今までの優しく穏やかな表情ではなく、怒りと憎しみに震えている。
カレンはすべてを悟った。父が北伐に関わっていたこと、東都都督らを一掃しようとしていたことを。
「お父様、どうして……」
驚愕するカレンから目を逸らして、丞相は胸元から小さな包みを取り出した。