第十八章 愛する人へ (4)
「どうして、あなただけ戻ってきたの? どうして、あなただけ生きてるの?」
問い掛けるが、リョショウは訳が分からない様子でぼんやりとしている。
カレンは込み上げてくる気持ちを抑えられず、リョショウの胸の上で拳を固く握り締めた。唇を噛んで顔を伏せると、大粒の涙が頬を伝って流れ落ちていく。
再びリョショウの手が、カレンの手に重なり合う。しかし懸命に力を込めて握ろうとする手は震えるばかりで、掴むことさえできずに滑り落ちていく。それでも、リョショウは何度も手を伸ばした。
「なぜ……泣く?」
リョショウが息の漏れるような声で尋ねる。虚ろな目は哀しい色を帯びて、カレンの姿を映し出していた。
カレンは崩れるように、リョショウを抱き寄せた。その目にはリョショウではなく兄のコウリョウの姿を映して、コウリョウの名を胸の中で何度も繰り返し呼びながら。
嗚咽が漏れ、いつしか溢れる涙とともに声を上げて泣き崩れていった。リョショウを強く抱いたまま、カレンは泣き続けた。
やがてリョショウの脳裏に浮かんだのは、自分を庇って散っていった兄の姿。いつのことだったのかは思い出せないが、自分は兄に生かされていることとカレンが兄を愛していたことだけはわかった。
「すまない……俺で……」
何も思い出すことはできないが、兄の代わりに生き残ってしまったことに対する罪悪感が胸を締め付ける。その影で疼いている正体のわからない空虚な気持ちから目を逸らしながら、リョショウはカレンの腕を強く握り締めた。
どれぐらいの時間が流れたのか、涙は枯れてしまったようにカレンは固く口を噤んでいた。リョショウはカレンの背に手を回し、二人は抱き合ったまま静かな時間が流れていく。
しんとした部屋に、廊下を歩く複数の足音が届いてくる。
ゆっくりと書庫へと近づいて来る足音は、父と護衛のものに違いない。カレンは顔を上げて頬に残った涙を拭った。
「立てますか? 私の肩に掴まってください」
カレンは急いでリョショウを抱き起こそうとするが、リョショウの体からは力が抜けて立ち上がることがやっとだった。足元はふらつき、歩くことも儘ならない。
カレンは力いっぱいリョショウを抱えて、肩に掴まらせる。歩き出そうとした瞬間、書庫の扉が勢いよく開いた。