第十七章 失脚への道 (9)
十数名ほどの西都都督一行は、まっすぐに王城へと向かってきた。夜も更けた大通りは人通りもさほどなく、突然やってきた彼らの存在を騒ぎ立てる者はいない。
ちょうど彼らが王城の門に差しかかった時、門にほど近い丞相の屋敷の門が開いた。中から出てきたのは丞相の娘カレンと侍女のミメイ、そして彼女の舞の師匠。稽古を終えて帰るところだ。彼女らは城門の前にいる西都都督らの姿を見て、驚かずにはいられなかった。
「あれは西都殿? どうしてこんな所に……何か緊急のお呼び立てでもあったのかしら?」
「いいえ、特に何も聞いてはおりませんが、シュセイ殿をお迎えに来たのではありませんか?」
一行を見てきょとんとするカレンに、ミメイは声を殺して告げた。その言葉を聴いて、カレンと師匠はくすりと笑う。西都都督と宰相のシュセイはいつも共に行動をしていることは、誰もが周知していることだったから、ミメイは冗談のつもりで言ったのだ。
「仲が良いことね」
「本当に、羨ましい信頼関係ですね」
カレンと師匠は顔を見合わせた。
すると西都都督がカレンらの存在に気付いて、姿勢を正して礼をする。突然のことにカレンらも慌てて、礼をして返した。頭を上げるとちょうど城門が開き、西都都督らは王城へと入っていく。
彼らを見送っていたカレンは、ふうと息を吐いた。
「私たちの声が聴こえてた訳ではないわよね?」
「はい、大丈夫でしょう。それに聞かれて悪いことなど話しておりませんから、御心配無用です」
胸を撫で下ろすカレンに、ミメイはにこりと微笑んだ。
「西都殿はよほどお急ぎなのかしら、宿舎に荷物を置かずに王城へ入っていくなんて……」
師匠が首を傾げる。
そう言われれば一行の荷物は少ないとはいえ、到着したまま王城へと入って行った。通常であれば、東都に到着した一行はまず宿舎に荷物を置き、服を着替えた上で王に謁見することになっている。王城へ直行するのは何か急用があるためか、宿舎に寄れない理由があるのではないか。
「何よりも早く、シュセイ殿にお会いしたいのでしょう。ね? ミメイ、そうでしょう?」
「きっとそうでしょうね」
カレンにつられて、ミメイと師匠も笑顔を零した。