第十七章 失脚への道 (8)
蔡王の部屋の扉を勢いよく開けた丞相は、自信に満ち溢れた顔を隠すように深く頭を下げた。
「陛下、シュセイ殿の捜索が終了しました。広間までお越しくださいませ」
「すべて思惑通り進んだようだな、これから祝いの宴というわけか、待ちくたびれたぞ」
丞相の力強い声を聞いた蔡王は、執務の手を留めて椅子にもたれ掛かった。ふうと大きく息を吐き、窓の外へと目を向ける。暗くなった空には、星が疎らに瞬き始めていた。
「お待たせして申し訳ありません、シュセイの責任を追及いたしますか? どうなさいますか?」
「そうだなあ……どうしようか?」
蔡王が腕を組んで、首を傾げながら顎鬚を撫でつける。
その時、慌ただしく廊下を駆ける足音が響いた。複数の足音が王の執務室へと向かって近付いてくる。只ならぬ様子に蔡王と丞相は顔を見合わせた瞬間、扉が叩かれた。
開いた扉の向こうには、息を切らせる丞相の部下たち。切羽詰まった表情で息を整える部下たちを丞相は手招きした。
「何があったというのだ? シュセイがまた何かやらかしたか?」
「いえ、シュセイ殿ではなく……西都殿が、ついさっき東都に到着されました」
思いも寄らぬ言葉に、丞相は目を見張った。
蔡王からも丞相からも呼び寄せた訳でもない。ここに来るはずの無い西都都督が、何故今頃やって来たのか。理解しがたい部下の言葉に、咄嗟に返す言葉が浮かばず口を開けていた。
椅子にもたれていた蔡王が体を起こし、驚いた顔で丞相と部下を見つめている。
「どういうことだ……なぜ、西都殿が来る……」
「わかりません、既に門を潜り大通りへと入ったとのこと、こちらへと向かっております」
独り言とも取れる丞相の言葉に、部下のひとりが早口で返す。
目を泳がせていた丞相は、はっとして蔡王を振り返った。蔡王と目が合うと、互いに何かを感じ取ったかのように目を見開いて固まって動けない。
蔡王と丞相の頭に過ったのは、これが最悪の事態ではないかという恐れ。そして、この件にシュセイが少なからず絡んでいるのではないかという憶測だった。
「丞相、何とか致せ」
突き放すような言葉を吐いて、蔡王は丞相から目を逸らした。