第十七章 失脚への道 (6)
シュセイらは丞相に案内されて、大広間の傍にある控室に向かった。
丞相が扉を叩いて部屋の中にいる侍女に向かって呼び掛けるが、いくら待っても返事はない。後ろで待つハクランが顔を曇らせ、今にも前に進み出しそうになる。彼を制止して、シュセイは丞相に訊ねた。
「丞相、本当にこちらの部屋でしょうか」
「はい、確かにこの部屋で間違いありません、入りましょう」
丞相は振り返り、苛立ちを隠せない皆に向かって静かな声で告げた。
ゆっくりと扉が開く。
目に飛び込んだ部屋の様子に、皆は言葉を失った。
「これは、どういうことだ」
丞相が声を震わせて駆け寄った先、ベッドの傍に侍女が横たわっている。ベッドの脚に両手を縛られ、猿轡を噛まされた侍女はぐったりとして動かない。
ベッドの上にリョショウの姿はないが、乱れた布団からは確かにそこにいた痕跡が窺うことができる。
部屋の様子から、皆に様々な不安と憶測が過る。
「リョショウ殿は、本当にここに居たのですか?」
ハクランがベッドに駆け寄った。触れた布団は冷たいことから、リョショウが眠っていたとしても随分前だったと思われる。しかし部屋にリョショウの姿は見当たらず、状況から想像出来ることは決して良くないものだった。
「はい、確かにここに眠ってらっしゃいました。すぐに警護の者を呼んで捜索させます、皆様は広間にお戻りください、私は陛下にも報告してまいりますので」
侍女を解き、丞相は振り返った。その声の力強さに、呆然とする皆の意識を呼び止める。
皆が広間へと戻るのを見届けた丞相は、警護を手配して蔡王の元へと走った。
「シュセイ殿、どういうことでしょうか? リョショウ殿はどこへ?」
ハクランが困惑した様子で訊ねる。口元に手を当てて、しばらく考え込んでいたシュセイは首を横に振った。
「やはり、昨夜連れ帰るべきでした。おそらく他の場所に移したのでしょう」
「他の場所とは? 無事なのでしょうか?」
「おそらく無事とは思いますが、あの状況からはリョショウ殿が自ら部屋を出て行った、あるいは何者かがリョショウ殿をさらった……様々な解釈が出来ます。そこが気掛かりですが……」
「では、早く探しに行きましょう」
「お待ちください、まずは東都の将を解放しましょう」
シュセイは眉を顰めながらも、自信に満ちた表情で頷いた。