第十七章 失脚への道 (5)
シュセイの指揮により、王城内の捜索が始まった。王族の私室を除いたすべての部屋にシュセイの配下らが立ち入り、東都の兵士の姿をくまなく探す。
いつしか捜索は、王城の外にある使用人や侍女の住む長屋にまで及んでいた。さすがに不在時に住居を覗かれることに抵抗のある侍女たちは、業務の途中で部屋へ戻って捜索の様子を心配そうに見守る。
「こんなところに東都軍の方々がいると、本気で思っているのかしら」
「何か勘違いされているのかもしれないわね」
ずかずかと部屋に入って懸命に捜索する姿を遠巻きに眺めながら、侍女たちは呆れた顔で声を顰める。確かに彼女らは自分達の部屋どころか、王城内で東都軍の姿を見たことなどなかったのだから。
侍女たちの言う東都の兵士は見つからず、シュセイの部下らは落胆しながら長屋を後にする。
捜索は王城の隅々まで日が落ちるまで続いたが、シュセイは東都軍の姿を見つけることが出来なかった。シュセイと彼の部下が捜索している間、広間で待たされていた蔡王はついに痺れを切らせて私室に戻ってしまっていた。
広間に戻ったシュセイが東都軍を伴っていないことと彼の連れている部下が浮かない顔をしていることから、聞かなくとも結果は明らかだった。
「残念ですが、いらっしゃいませんでした」
シュセイが目を伏せて報告すると、広間に集まる皆が落胆の表情を見せた。彼らの様子を見ていた丞相は、悟られぬようにほくそ笑む。
「では、私は陛下を迎えに参りましょう」
自信に満ちた顔で告げた丞相が、悠々と広間を出ていく。その背中をシュセイが呼び止めた。
「お待ちください、他に気になる事があります。東都殿の奥方がこちらで療養されていると聞きましたが、御姿が見当たりませんでした。それとリョショウ殿の姿も……今どちらにいらっしゃるのでしょうか」
「言い忘れておりました。東都殿の御婦人は王族と同等のお部屋にいらっしゃいますので、後でご案内いたしましょう。リョショウ殿はそちらの控室にて休んでいらっしゃるはずです。今朝まだ眠ってらっしゃると聞いたので、侍女を傍に置いてきたのですが……」
丞相は神妙な顔をして首を傾げた。あたかも何も知らないと言いたげな様子に、皆が顔を見合わせる。
「すぐに様子を見に行きましょう」
シュセイは丞相に案内を促した。