第十七章 失脚への道 (3)
昨夜、宴の開かれた広間に集まった者たちの表情は、一変して険しい表情に変わっていた。これから始まる事を予感しているかのように、緊張感溢れる空間を見渡した蔡王がゆっくりと口を開く。
「東都殿、北都殿、そして西都の宰相殿、このたびの素晴らしい活躍に心からの感謝を申し上げる。今後とも三都が互いに協力し合い、結束を固めることで蔡の国の発展に努めていこうではないか」
丞相の拍手をきっかけに、広間に盛大な拍手が沸き起こる。
これですべてを丸く纏めたい蔡王だったが、拍手が鳴り止むのを待っていたかのように一人の男が進み出た。それは思ったとおりの人物、眉をぴくりと動かして蔡王が見据えると恭しく礼をし終えたシュセイが顔を上げた。
「恐れながら今回のカンエイの造反について、気になる点がいくつかあったため調べさせていただきました。ご報告をさせていただく前に、陛下にお願いしたい事がございます」
「願いとは? 今回の件はカンエイによる造反が発端、彼を討ち取ったことで事態はすべて収束したはずだが、それ以上に何かあるなら申してみよ」
蔡王が平静を装いながら促すと、シュセイはもう一度礼をして話し始めた。
「北伐への出征時、東都殿が残していった部下がおりました。ところが戻ってきたところ、都督府で留守を預かっているはずの部下の姿が見当たりません。どちらにいらっしゃるのか、ご存知でしたらご教示ください。ご存知でなければ城内の捜索を許可願います」
抑揚のないシュセイの問い掛けに、蔡王は息を呑んだ。いきなり城内の捜索を申し出るとは思わなかったのだから。ちらりと丞相に視線を送り、助けを訴える。丞相は待っていたと言わんばかりの顔で頷いた。
「シュセイ殿、それは間違っていると思われます。何故、城内を捜索する必要があるというのですか?彼らが城内に居るとでも思っているのでしょうか?」
「はい、城内での目撃情報を得たものです。火の無いところに煙は立たぬと言いますから、疑わしいところはまず捜索をさせていただきたく、お願い申し上げております。それに、ここ以外の場所で彼らの行きそうな場所など想像できません」
シュセイは凛として丞相を見上げる。蔡王の隣りに立つ丞相も、負けじとシュセイを見据えた。